熟成酒で歴史継承 地震被災蔵仕込みの酒活用 世界初「デジタル資産」で販売 福島市の金水晶酒造

 2022(令和4)年3月の福島県沖地震で被災し、福島市松川町の酒蔵を市内荒井に移転した金水晶酒造は福島大などと連携し、松川町の旧酒蔵で仕込んだ日本酒を使った熟成酒造りに乗り出した。劣化を防ぐ酵母を混ぜ合わせて古酒の香り高い性質を残しつつ、まろやかな味わいを目指す。熟成酒は「デジタル資産」として売り出す。同社によると世界初の試み。斎藤湧生社長は「松川町で始まった酒造りの歴史を、熟成酒を通じて伝え続ける」と意気込む。

 「松川町で酒を造り続けた約130年の歴史が途絶えてしまう」。斎藤社長の危機感からプロジェクトが発足し、4月に仕込みが始まった。旧酒蔵で醸造した日本酒を仕込み水の一部として活用する。製造から時間がたった日本酒は、まろやかな「熟成香」と「老香(ひねか)」と呼ばれる独特の香りが出る。老香は酒の品質を落とすとされ、老香の抑制効果がある吟醸酵母を使った。酵母は酒類総合研究所などが開発した。

 酵母開発に携わり今回のプロジェクトでも醸造を指導する福島大食農学類の藤井力教授は「災害などで別な土地での酒造りを余儀なくされた酒蔵が、歴史や思いを引き継ぐモデルになるのでは」と期待を寄せる。

 火入れなどを経て720ミリリットルを3千本程度瓶詰めし、まずは1年寝かせて熟成度を見る。斎藤社長は「長期間貯蔵し、ワインのようなヴィンテージ商品にしたい」と夢を膨らませる。

 熟成酒の販売は、購入者が販売前に価格を決めてデジタル資産として取引する仕組みを導入する。価格設定が難しい熟成酒の値段に購入者の意見を反映させる狙いだ。慶応大経済研究所の研究員でもある斎藤社長は「プロジェクトを通じて日本酒全体の価値も高まってほしい」としている。

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