情熱が醸す極上の一献 福島県内新酒18銘柄金賞

受賞酒を手に喜びをかみしめる松本さん=名倉山酒造

 22日に審査結果が発表された全国新酒鑑評会で、福島県内の金賞18銘柄のうち14銘柄は会津の蔵元が手がけ、金賞数を昨年の全国5位から2位にまで押し上げる原動力となった。会津の金賞数は過去10年間で2014(平成26)年と並んで最多。昨夏の記録的猛暑の影響で硬くなったコメに苦労しながらも、逆境をはねのけ知恵と工夫で乗り越えた。会津が誇る清らかな水を生かして雑味のない味わいに仕上げた。中通りの蔵元も上質な酒を醸すため一層の努力を重ねた。関係者は来年の日本一返り咲きに向けて、さらなる研さんを誓った。

■名倉山酒造 若松 夢心酒造 喜多方 花泉酒造 南会津 酒どころ会津復権

 「念願の金賞だった」。13回連続の歩みが昨年途絶えた会津若松市の名倉山酒造に待ちわびた吉報が届いた。2022(令和4)年に経営を託された松本和也さん(34)にとっては社長就任後、初の受賞となった。

 昨年は硬いコメに苦戦した。思うように発酵できず、これまで積み重ねてきた栄光を手にできなかった。「悔しい。次こそは」。気持ちを奮い立たせ、今回はこうじ造りに重きを置き、より発酵しやすくなるよう試行錯誤を繰り返した。華やかな香りと芳醇(ほうじゅん)なうまみが口に広がる納得の出来栄えだった。松本さんは「これからも飲み手に喜んでもらえる酒を造りたい」と高みを見据えた。

 喜多方市の夢心酒造は7年ぶりに金賞を受けた。昨夏の猛暑を踏まえ、今回は市内の契約農家と連絡を密にして、収穫前から硬いコメの特徴を分析。柔らかく蒸し上げるため1、2分ほど給水時間を増やした。

 豊富な飯豊山の伏流水は酒造りに適した軟水で、口当たりが良く柔らかい酒が出来上がるという。社長の東海林伸夫さん(55)は「常に異なり、常に変わらない酒造りを目指し、地元の米で醸し続ける」と誓う。

 南会津町の花泉酒造は地元で生産された県開発の酒造好適米「福乃香(ふくのか)」を使用し、初の金賞をつかんだ。伝統製法を生かし、より優しい香りと甘みに仕上げた。杜氏(とうじ)の中丸信さん(54)は「いい味になった。生産者の方にもいい報告ができる」と笑顔を見せた。

■末廣酒造 若松、美里 8年ぶりダブル受賞

 末廣酒造は会津若松市の嘉永蔵、会津美里町の博士蔵で仕込んだ銘柄が2016年以来となるダブル金賞を果たした。

 昨春、8代目社長に就任した新城大輝さん(34)は、純米にこだわった醸造を嘉永蔵で始動させた。香りを立たせるのが難しいため、酒母をつくる段階から温度管理に注意を払ってきた。蔵人の猪股直幸さん(35)は「新たな酒造りで、来年も続けて受賞したい」と力を込めた。

 博士蔵の「玄宰」は2年ぶりの金賞。県春季鑑評会の吟醸酒の部でも最高賞を受けており、杜氏の津佐幸明さん(64)は胸をなで下ろした。醸造の一部を見直し、仕込みの水量を減らしてしっかりとした味わいに仕上げた成果が実った。

■松崎酒造 天栄 変化挑戦 手応えの味

 天栄村の松崎酒造の「廣戸川」は2年ぶりに金賞を射止めた。

 専務の松崎祐行さん(39)は杜氏(とうじ)として11回連続を目指した昨年、金賞を逃した。長所である味わいの「軽快さ」がマイナスに捉えられてしまったのではないか―。飲み口の軽さを生かしながら、香りの豊かさや米由来の甘味が調和するよう、こうじの量などを見直した。金賞を連続して受けていた時には変えなかった点で、手探りで調整した。

 難しい挑戦を、蔵人たちの緻密な仕事が成功に導いた。コメの硬さにも対策を講じた結果、発酵段階から香りが高く、手応えを感じていた。

 松崎さんは「市販酒にもこの技術を反映させたい。今年が再スタート。一層質を上げる」と意気込んだ。

貯蔵タンクの前で酒造りを振り返る東海林さん=夢心酒造
さらなる向上を目指す松崎さん=松崎酒造

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