がん治療研究者の小林久隆 自身が開発した「光免疫療法」を初対面の成田悠輔に「光って怪しげ」と言われ……

“未来の日本を作る変革者”と経済学者・成田悠輔が対談する番組『夜明け前のPLAYERS』。第16夜では、「光免疫療法」を開発したがん治療研究者・小林久隆がゲストに招かれた。「大変失礼ながら」と前置きしつつも「“光”とかついていると正直、怪しげな感じを持ってしまうんです」と大胆な成田に、終始にこやかに対応する小林。ネットでは「専門用語を使わず、だいぶ簡単な言葉で話してくれている」「いまがん治療がどこまで進んでいるかがよく理解できました」と感謝の声が多数上がっていた。

小林が開発した光免疫療法とは、特定の薬剤を投与しレーザー光を照射することでがん細胞を死滅させるがんの治療法だ。その薬剤は、簡単にいうと“特定のレーザー光に反応する物質を付着させた、がん細胞だけに吸着する抗体”なのだそうだ。

だから、投与された薬剤は患者のがん細胞だけにたどり着く。がん細胞にくっついたところでレーザー光を当てると物質が化学反応を起こして、がん細胞の膜を破壊。防御力を失ったがん細胞は死に向かうという仕組みだ。「外科治療(手術)」「放射線治療」「薬物治療」「免疫療法」に続く第5のがん治療法として注目され、2020年に世界に先駆け日本で承認。2021年からは保険適用になっている。

■「がんはしっかり減っているけれど、免疫は上がっているよね」を実現

さて成田の質問に小林はどう答えたのか。「最初、“光を当ててがんが治る”と言ったら“どこの宗教か”と言われました。だから、そう思われて当たり前だと思います」と同調。成田と一緒に、穏やかに声を立てて笑った。

世の中には光免疫療法と称するものがいくつもあるのだそうだ。“光免疫療法”という言葉自体は一般的な名称のため商標登録もできない。だから小林の光免疫療法は“アルミノックス治療”として商標登録されている。

「光免疫療法は、これまでのがん治療法と比べどんな違いがあるのか」。成田の問いに小林は「“効果はあるけれど完璧じゃない”という現状に対して、完璧とは言えないけれど、少なくとも違う戦況で闘えるようにしたかった」と開発への思いを話し始めた。

「がん細胞は、増えて腫瘍という塊になる。これが病気の元なんです。だから取ろうと思うのだけれども、取っても再発や転移で再び人間の体を傷めてしまうことがある。がんを抑えむためには人間の体が持つ防御力(=免疫の力)も使わなければいけないというのが免疫療法(の考え方)です」と小林。

かつてはいかがわしい治療法というニュアンスもあったが、ここ10年ほどで「免疫の薬は間違いなく効果がある」という方向に世の中の認識も変わってきているらしい。ただ免疫療法だけでは、がん細胞の数が免疫細胞の量よりはるかに多くなった場合、がんが治りきらないという事態が起こる。

そこで「がんはしっかり減っているけれど、免疫は上がっているよねという状態にすれば戦局は変わるはず」と小林は考えた。「人間の体の中では、1個や2個のがん細胞ができても自分の免疫細胞が抑え(病気としての)がんになっていない、ということが普通に起こっている。じゃ、そこまで押し戻せればいいじゃないか」。その発想で光免疫治療を開発し、「今、一応できているはずなんです」と話した。

■“失敗”で生まれたがん細胞も「もともとは自分の細胞なんですよ」

「そもそもがんとは何なのでしょうか」。聞き慣れ過ぎた“がん”というものを、改めて考える機会を持ちたいと成田は問うた。

「がん細胞は、もともとは自分の細胞なんですよ。体には、子どもの頃からずっと同じ細胞がいるわけではなく、どんどん分裂して大きくなり、年をとっても細胞は分裂する。(がん細胞は)その中での“失敗”なんです」と小林は、ジッパーを例に“失敗”のイメージを説明し始めた。

ジッパーを開いた際、両側に別れる歯の様子を、細胞分裂で遺伝子が正しく複製された“成功”例とすると、「何らかの間違いやちょっとしたミスで片側に違うものが付いてしまい、開かなかった他のジッパーが開いちゃうとか、変なことが起こってしまう」のが“失敗”。つまり遺伝子の複製ミスだ。

この“失敗”は、人によっては1日に100個も1,000個も起きているのだとか。「その遺伝子の複製ミスが、人間の体の中では絶えず起きているということ?」と念を押す成田に「そうです」と小林。

「ちょっとの失敗程度なら細胞は自然に終わりを迎える。しかし、その“失敗”がたまたま“どんどん増える”というもので、さらに体内の防御機能を破ってしまう性質を持った場合、失敗作の細胞は無秩序に増え、統制がとれた体内の秩序を壊してしまい、がんという病気になる」と自身が抱くがんのイメージを語った。

人間の歴史の中で抑えられてきた感染症などと違い、がんと人間の闘いは長い。「がんが未だに克服しがたいものとして残り続けているのはなぜか」と成田から意見を求められた小林は、がん細胞は基本的に自分の細胞だという点を基調に見解を述べた。

「外から入ったバクテリアやウイルスというものは外敵ですよね。外敵に対する防御はやりやすいんです。違いがはっきりしているから。だけど、がんは自分の細胞が変化したもの。ほとんどが自分の細胞で、ちょっとだけがんになっているという感じなので、そこを狙って治療する方策が立てにくいという点が(要因の)1つではないかと思うんです」

ならば、「50年後も100年後もがんは人間にとって大敵なのか」と詰め寄る成田。小林は、今後がんでの死亡率は減ると予測。すると寿命は間違いなく延び、次の死因は機能の衰え、つまり老衰だろうとしつつも「あと1つ、可能性があるとすれば感染症ですね」と話す。

「ウイルス疾患はがんと同じように決定打がないんです。ウイルスは外敵だから、一般的には人間の免疫が反応して抑え込んで治してしまうんですが、ウイルスが、人間が抑え込めないスピードで病気を起こしてしまった場合は致死率が高くなる」と言い、ウイルスを含む感染症について「もう少し科学が進んだら、病気を作ろうと本気で思ったら作れちゃうかもしれない」と自然発生以外の方法で発生する可能性も考えていることを明かした。

本対談は『夜明け前のPLAYERS』公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が配信されている。

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