小林久隆×成田悠輔 がん標準治療のメリット・デメリットを洗い出して「後発の治療ほど高くなるのはなぜ?」が分かった

経済学者・成田悠輔がMCを務めるトーク番組『夜明け前のPLAYERS』では、第5のがん治療法と呼ばれる「光免疫療法」を開発したがん治療研究者・小林久隆と成田が従来のがん治療を深掘り。外科治療、放射線治療、薬物治療、がん免疫治療、それぞれの輪郭が浮き彫りになった。

■3つのがん標準治療 「悪い細胞を取り去ればいい」がもたらす影響

小林は「(この先)がんで死ぬことは、もう少しは減らせるだろう」と言う。すでに確立された治療法があり、さらに新たな治療法も模索され続けているからだ。しかし成田は、治療として確立され、標準治療とされた3つの治療法(外科治療、放射線治療、薬物治療)をして人間は長くがんと闘ってきたが、それでも完全に克服できていない現状について「標準治療のメリットとデメリット、いまだに立ちはだかっている壁や限界みたいなものは何なのか」と問うた。

小林は各治療の特性から話し始める。まずは外科治療。標準治療の中で一番大きなもので、手術によってがんを切除する。「がん細胞が体の中に一つもいなくなれば治るわけです。ただ、全部取り切るのは難しいから再発などが起きてしまいます」と指摘。

また「がんが増殖した箇所は免疫が破られた結果ではあるのですが、それでも人間の体はがん細胞を抑え込もうとする。その中で闘っている免疫もいるんです」と小林。「がんの切除でそんな免疫たちも一緒に切除されてしまう。確かに手術でがん細胞はいなくなるけれど、体の機能や、体の攻撃力も防御力も取り去ってしまうということが起きます」と語った。

放射線治療については、放射線の専門である自身の見解も含めて「外から放射線を当ててがんを死滅させてしまおうという治療です。当てればもちろん、がんは死ぬわけですが(正常細胞にも影響があるという点で)放射線というのは体にとって毒になる」と話す。「放射線も免疫細胞を叩(たた)いてしまうんです」と加え、放射線が影響して免疫力が落ちてしまうと伝えた。

そして薬物治療については「これまでは“毒をもって毒を制す”型の薬が多かったんです」と言う。抗がん剤が開発された最初の頃の話だと断りを入れつつ、「無秩序に増殖するがん細胞がターゲットなために、“どんどん増える細胞を抑えればがんはいなくなる”というのが薬物治療のコンセプト」。ゆえに、細胞分裂を盛んに行う正常な細胞、例えば毛髪や腸管の細胞に影響を与え、脱毛やひどい下痢といった症状が起きる。「さらに具合が悪いのが免疫細胞。外敵を対処するためにとても分裂が早いため、がん細胞と一緒にやられてしまうんです」と指摘した。

「標準治療は私が医者になる、はるか前からのもの」と各治療の開発背景が今の時代とは違うことを前置きした上で、「がん治療は“悪い細胞を取り去ればいい”というコンセプトで行っていたから、がんを取って命が助かれば、体の機能はある程度失ってもしょうがないとか、特に当時は免疫が重要だと思っていなかったこともあって、がんに対する免疫まで根こそぎ取ってしまう治療になりがちなんです」と標準治療のデメリットに触れた。

■第4のがん治療法は「かなりのスピードで増えるがん細胞を相手に闘えるのか」

小林は、第4のがん治療法として注目されている、本庶佑(医学者。2018年にノーベル生理学・医学賞受賞)による「がん免疫療法」についても言及した。

本庶の免疫療法は、免疫本来の力を利用してがんを攻撃する治療法だ。「ほとんどのがん細胞は、自分の体の免疫が処理している。がんが、その免疫の力を破った結果というのであれば、免疫を強くしてやればがんを抑え込めるのではないかという発想です」と小林。

免疫を強くすることでがんを抑え込んだ患者、治った患者は確かにいるとしながらも、「でも、破られちゃっているんですよね。最初に」と懸念を示した。つまり、一度防御を破られている免疫細胞が、かなりのスピードで増えるがん細胞を相手に闘えるのか、全てを抑え込むことができるのかという危惧だ。

一方、免疫療法のいいところも小林は指摘する。「体中の免疫を強くするので、がんが1か所ではなく、体のあちらこちらに存在する場合、それらも一緒に叩けるような能力を持つ可能性があります」

「では、こういったがんには、この治療が有効だというような特徴はあるのか」と成田。小林は「すごく大ざっぱですが、がんが散っていなければ、取ってしまうのが一番いい方法かもしれない。取ってしまうと不都合がありそうな場所にあるがんだったら、放射線を当てるのもいいかもしれない。そして、全身に散ってしまった時には抗がん剤や免疫療法でという振り分けかなという印象です」と慎重に答えた。

■良い治療は選ばれて淘汰(とうた)される 「使ってもらえなければどうしようもないです」

小林の開発した「光免疫療法」は第5のがん治療法として、2021年から保険適用の治療が始まっている。すでに300人ほどの患者に対して、全体で500~600回の治療を行っているそうだ。「新しい治療法が提案された際、それがどれほど良いものなのかはどういう基準で判断されるのか」と問う成田に小林は「最終的には、使ってもらえなければどうしようもないですね」と答えた。

それは経済観念と同じだと小林は言う。医療コミュニティー内での力関係が影響する可能性は否定しないまでも、「その治療がほんとうに良ければ、選ばれて淘汰(とうた)されていくべきものになるはずという感覚がある」とし、「そこを狙って治療を作れれば、良いものになるのではないか」との思いを語った。

選ばれるか否かは、治療にかかるコストも要因の一つだろう。成田は各治療法のコスト面での違いについて、さらに小林に聞いた。

「後発の治療ほど高くなるというのは、しょうがないところがあるんですよ」と小林。その理由は、開発した治療を承認されるものにするためには「外科手術と比べてこれだけ良いといったことを、積み重ねていかなければならないんですね。そのコストはとてつもない」からだ。後発になればなるほど、ライバルも増える。すると一層、治療自体の値段が高くなってしまうという構図だ。

ただ「値段を高く設定しすぎてしまうと、誰も受けられない治療になってしまう」と小林は指摘する。「保険適用になっていれば、患者の負担感はそれほど変わらないのでは?」と成田。元の治療代が高ければ保険適用でも負担が増えるとし、「日本は高額医療制度によって患者負担の上限が設定されていますから(患者にとっては)そこはいいんですが、国庫にはものすごい負担がかかることになります。すると保険制度を維持できなくなりかねない」と治療費設定の難しさを吐露した。

『夜明け前のPLAYERS』の各対談は公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が配信されている。

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