【光る君へ】紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)の過去の恋愛模様を、紫式部の父についに告白

大河ドラマ「光る君へ」第20回より ©️NHK

2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第19回「放たれた矢」と第20回「望みの先に」です。

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第19回「放たれた矢」。文字通り、矢が放たれて内裏は大きく変わる。前回、筑前守(ちくぜんのかみ)として太宰府に赴任していた藤原宣孝(のぶたか/佐々木蔵之介)から、博多の津(港)に宋(そう)から多くの商人や役人が訪れていると聞かされたまひろ(後の紫式部/吉高由里子)は、異国への憧れがますます募るばかり。

宋の国では科挙(かきょ)という制度があり、それに合格さえすれば、身分の高低に関係なく政に参加できるのだと知ると、ますます宋への興味が募っていった。弟の藤原惟規(のぶのり/高杉真宙)に頼んで宋の書物『新楽府(しんがふ)』を借りてきてもらうと、それを一心に写す日々が続いた。

その頃内裏では、藤原道長(柄本佑)の出世を快く思わない、故・道隆の長男・藤原伊周(これちか/三浦翔平)と次男・藤原隆家(たかいえ/竜星涼)が、内裏への参内をしなくなっていた。新たに参議に任じられた源俊賢(としかた/本田大輔)は二条第に伊周と隆家を訪ね、参内を促す。俊賢は道長の妻・源明子(あきこ/瀧内公美)の兄であり、二人は警戒するが、一条天皇(塩野瑛久)も案じていると伝えられると反応が変わる。

「右大臣に対抗する力がないと、内裏も陣定(じんのさだめ)も偏りなく働かないと帝は考えておられるのでは」との言葉に心を動かされる二人だったが、実はこの一連の訪問は道長が命じたものだった。道長が伊周を不当に扱っているという疑いを抑えるためのことだったようだが、ここで描かれるのは、道長があくまでもフェアであろうとする清廉な人物であったということだ(少なくともこの時点では)。

この次の回にもそういう場面が出てくるが、この物語の中では、道長はあくまでも出世欲の旺盛な権力者として描かれるのではなく、「よき世」を作りたい一心で政に臨む人物としてすべての言動がある。そのベースにあるのは、まひろとの約束だというところが、ドラマの核になっている。単なるラブストーリーにならないのは、その「同志」的な絆が常に切れずにあると、繰り返しさまざまなシーンの中で表されるからだろう。

そんなまひろのもとを、ある日、ききょう(清少納言/ファーストサマーウイカ)が訪れる。そして右大臣となった道長の活躍について、まひろに語って聞かせる。疫病に苦しむ民の租税を免除したり、若狭を訪れた宋人を受け入れる用意のある越前に移すよう一条天皇に進言したり、その英断に公卿(くぎょう)たちの人望も厚いという話に、まひろは浮かれることなくこう言い放つ。租税の免除などは高貴な者から民への施しにすぎない。宋には科挙という制度があり、身分の低い者も志と能力さえあれば対等に政に参加できるのだ、と。

こういうところが、この二人の気持ちのよいところだなぁと思う。互いに高め合うというか、共通の理想を目指して妥協しないというか。こんなまひろだからこそ、道長は惹かれてしまうのだろうと、そんなことも思ったりする場面だ。

後日、まひろは、ききょうの手引で登華殿を訪れて、中宮・藤原定子(さだこ/高畑充希)に目通りが叶う。そこに思いがけず一条天皇も訪れ、定子が紹介する。「この者は、ききょうの友にございます。女子ながら、政にも考えがあるそうにございます」

興味を惹かれた一条天皇は「朕(ちん)の政に申したきことがあれば申してみよ」と発言を促す。まひろは臆せず、宋の科挙のことを伝えた。そしてこう付け加える。「下々が望みを高く持って学べば、世の中は活気づき、国もまた活気づきましょう」。一条天皇も「そなたの夢、覚えておこう」と答えた。

大河ドラマ「光る君へ」第19回より ©️NHK

そしてこのことは、天皇から道長の耳にも入ったのだ。直接顔を合わさずとも、互いの変わらぬ夢や生き方を確かめることができる。こういうシーンの道長の表情がなんとも言えずいいのである。

やがて除目(じもく)の時期がやってきた。除目とは、平安時代に大臣以外の諸官職を任命した儀式のことで、右大臣・道長のもとには官職を求める申文(もうしぶみ)が多数届いていた。10年官職から離れていたまひろの父・藤原為時(ためとき/岸谷五朗)は、これが最後と言いながら、まひろにけしかけられて淡路守(あわじのかみ)を希望する旨の申文を出す。従六位(じゅろくい)の身分の為時には過ぎた願いだが、朝廷からは「従五位下に叙す」と知らせが届く。為時はますます娘と道長の関係を確信するようになっていく。

そして物語は急展開を迎える。伊周が、たびたび忍んでいた藤原斉信(ただのぶ/金田哲)の妹・藤原光子(みつこ/竹内夢)を訪れると、屋敷の前に立派な牛車が止まっているのに気づく。光子に別の男がいると思い込んで傷ついた伊周は、二条第に戻って荒れる。そんな兄を見た隆家が、屋敷に繰り出して相手を懲らしめてやろうと提案するのだ。

屋敷前で二人が待ち構えていると、男が一人出てくる気配がした。兄の制止も聞かず、そちらに矢を放った隆家。それが、屋敷から出てきた男の鼻をかすめて壁に突き刺さった。「院! いかがされました、院!」と騒然とする周囲。出てきた人物は、花山院(本郷奏多)だったのだ。院は光子ではなく、その妹のもとへ通っていたのだ。これが世にいう「長徳の変」の始まりだった。

第20回「望みの先に」は、とんでもない不祥事を起こした伊周・隆家の行く末と、それにともなう中宮の運命が見どころだ。いよいよこれから道長をめぐる物語が大きく動き出そうという予感のするエピソードが、そこここに散りばめられた回だった。

伊周と隆家が置いて帰った武者の中に二人死者が出たと聞き、一条天皇は激昂する。「伊周と隆家の参内まかりならず。当面謹慎させよ。中宮は、身内のものに一切会うべからず」。つらいのは間に立たされた中宮である。身内である兄弟の不始末が最愛の夫である一条天皇の逆鱗に触れてしまったのだ。

一方、まひろの父・為時は、念願叶って淡路守に任命されるが、まひろは越後に宋人が大勢来ていると聞いて以来、父のように漢籍に明るい宋の言葉も解する者は、淡路ではなく越後守にこそ相応しいのにと内心思ったりする。祝いに駆けつけてくれた藤原宣孝にもついそのことを漏らしてしまうと、「除目のあとでも任地が変わることはある」と聞かされて、まひろは月明かりの下、墨をすり始める。

後日、たくさんの申文の中に、「藤原朝臣為時」の名前で漢文が書かれているのを道長は見つける。その見覚えある筆跡に、道長は書き手がまひろであることを確信する。

苦学寒夜 紅涙露袖
除目春朝 蒼天在眼

学問に励んだ寒い夜は、血の涙が袖を濡らした。除目の翌朝、無念さに天を仰ぐ私の眼には、ただ青い空が映っているだけ。この漢文に感じ入った一条天皇は、道長の推挙もあり、すでに越前守に決まっていた源国盛(くにもり/森田甘路)に替えて、為時をその職に任じる。

大河ドラマ「光る君へ」第20回より ©️NHK

道長からの立て続けの引き立てに、さすがにこれはと思った為時は、改めて道長との関係をまひろに尋ねる。「道長様は私がかつて恋い焦がれた殿御にございました。されどすべて遠い昔に終わったことにございます。越前は父上のお力を活かす最高の国。胸を張って赴かれませ。私もお供いたします」。うなずく為時の笑顔に、さわやかなまひろの笑顔がまたグッとくる。

その頃、体調不良が続く女院こと藤原詮子(あきこ/吉田羊)を思って屋敷を探索させた道長の妻・源倫子(ともこ/黒木華)は、屋敷のそこここに女院を呪詛する札などを見つける。悲鳴をあげる女院だったが、これが彼女の自作自演であることを倫子は見抜いていたのだった。なので、道長を前にこうきっぱりと宣言するのだ。「殿、このことは私におまかせていただけませんでしょうか。屋敷内で起きたことは私が責めを負うべきにございます。こたびのことも私が収めとうございます」

いやぁ、自作自演の女院様も恐ろしいが、これをわが手でしっかり火消ししようという倫子の賢夫人ぶりがもっと恐ろしい、と思うのは私だけであろうか。あの微笑みが怖い(笑)。というのも、結局、伊周も隆家も「呪詛した」という濡れ衣を着せられて、一方は太宰府権帥(ごんのそち)に、もう一方は出雲権守(ごんのかみ)への遠流(おんる)が決まってしまうのである。そして中宮は実家に戻された。

二人の行く先を案じる道長に安倍晴明(はるあきら/ユースケ・サンタマリア)は断言する。「大事なのは、いよいよあなた様の世になるということにございます。あなた様には誰も敵いません」。やっぱり倫子が夫の出世のためにやったこと?と勘ぐってしまうじゃないの。倫子としても夫に「女」の影を見るだけに、必死なのであろうか。

沙汰が下ったというのに、命に従わない伊周、隆家を検非違使(けびいし)たちが捉えに来る。そのとき、逃げる伊周を追う検非違使の刀を抜いて自らの喉元につきつける中宮・定子。「あっ!」と誰もが固唾をのんだ次の瞬間、ばっさりと長い髪を切った。髪を下ろしてしまったのだ。

これだけの人間模様が各所で展開しながらも、どの人物にもきちんと前後のストーリーが感じられて視聴者をぐいぐい引っ張っていくところは、さすが大石静の手腕だ。女達の裏での動きからも目が離せない。来週も待ち遠しいぞ。


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