【解説】中国は台湾新総統が本当に嫌い……軍事演習から分かること

ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、BBCニュース(台北)

中国が23日、台湾周辺の空と海で軍事演習を開始した。直後、中国はある人物がこの演習の引き金を引いたとし、激しい非難を浴びせた。台湾の新総統、頼清徳氏だ。

中国の国営放送・中国中央電視台(CCTV)や国営紙・環球時報の社説、外務省報道官などは、声をそろえて頼氏を厳しく批判している。

環球時報はこれまでも、頼氏を「傲慢(ごうまん)」で「無謀」だとしてきた。CCTVは頼氏について「歴史の恥の柱に間違いなく、くぎ打ちされる」とし、「二国論を売り込んでいる」と非難。頼氏と、頼氏が率いる民主進歩党(民進党)が「台湾独立という破滅的な道を突き進むなら、最終的には衝突・炎上するだろう」と警告している。

中国は、頼氏が20日の就任演説で中国を「中国」という言葉で表現することで、台湾は中国ではなく、別の国だとする本心をのぞかせたとしている。中国から見れば、頼氏は「分離主義」のイデオロギーをもっていることを認めたというわけだ。

はたから見ている人には、ばかばかしく思えるかもしれない。しかし、中国と台湾は何十年もの間、中国の定義や、台湾は中国の一部なのかをめぐって、あいまいな物言いをしてきた。台湾の蔡英文前総統でさえ、中国に言及するときは気を配り、「海峡の向こう側」、「北京の当局」などの遠回しな表現をしてきた。

台湾の学者の中には、こうした言葉遣いは重要であり、頼氏は危険な一線を越えたと言う人もいる。一方、中国政府が頼氏を嫌悪しているのは以前から明らかで、頼氏の演説は、中国に今回の威嚇行為を正当化する言葉を与えたに過ぎないと言う人もいる。

大方が一致しているのは、中国の習近平国家主席は中国による台湾支配を望み、台湾の人たちはそれを拒絶しているという基本的な事実は変わらないということだ。

台湾では、今回の事態に特別驚いている人は皆無だ。台湾の人たちにとって、中国共産党(CCP)はむしろ予測可能だ。今年1月の台湾総統選挙で頼氏の民進党が3連勝を果たしたとき、多くの人は中国がいつどのような反応を示すだろうかと考えた。

容易に予想できたのは、中国が反応するのは頼氏が総統に就任し、最初の演説をした後だろうということだった。そして実際、頼氏の就任式から3日たって、中国は反応を見せたのだった。

その反応が自然発生的なものではないことは、準備から読み取れる。これほどの規模の演習の人員を数日のうちに動員できる軍隊は存在せず、中国人民解放軍(PLA)であっても無理だ。演習の内容を正確に把握するのは難しいが、中国の発表によれば、演習地域はおそらく過去最大だ。台湾海峡とバシー海峡(台湾とフィリピンを隔てる海峡)の大部分と、台湾東岸沿いの太平洋の広い海域を含んでいる。

今回初めて、中国の海岸付近に点在する台湾の離島が演習地域に入れられたことも注目に値する。PLAはそれらの島が中国軍に「包囲」されているとしている。中国の軍事評論家張弛氏は、今回の訓練ではPLAの「台湾の主要インフラを掌握する能力」が示されたとCCTVで話した。

台湾の軍事専門家の揭仲氏は今回の演習を、実際に上陸はしない、台湾への本格攻撃のシミュレーションのようだと説明。演習区域に台湾沖合の島すべてが含まれていることからは、PLAに反撃可能な施設を破壊するという中国の計画が分かるとしている。また、2日間の日程で実施されている今回の演習は、台湾にとって今年最後の中国による軍事演習ではないだろうとし、中国が「連合利剣 2024-A」という呼び名をつけていることからも、そのことがうかがえるとしている。

台北の街角では人々はそろって、今回の演習に肩をすくめている。多くの人は、心配はしていないと言うだろう。だがそれは真実とはいえない。中国の隣で暮らすということは、地震地帯で生活するようなものだ。脅威は常にあり、軍事演習は規模と危険性が増しており、人々には備えが求められる。一方で、日々の生活も送っていかなくてはならない。

台湾の与党・民進党と野党の関係は険悪で、先週も議会で乱闘騒ぎがあった。しかし、中国の軍事演習がすべての政党を団結させた。親中派とされる野党・国民党も中国に自制を求めた。今は中国に友好的だとみられたくないのだ。

ここには奇妙な皮肉が見て取れる。中国の共産党指導層が台湾とその人々をいかに理解していないかを示すものだ。

中国の指導者らはこの日、今回の軍事演習は「独立勢力を抑え、打ち負かす」ことだけに集中していると宣言した。また、頼氏について、これまで中国政府に対抗してきた台湾指導者の中で最悪だとした。

CCTVは頼氏を、「台湾独立の推進において、李登輝、陳水扁、蔡英文をしのいでいる」と論評した。台湾で選挙によって選ばれたこれら3人の元総統を、中国は「分離主義者」の代表格としている。頼氏を含め、このように評されている人たちのうち、3人は民進党出身だ。

中国が軍事的な威嚇を強めるたび、民進党の支持は高まり、「中国寄り」の国民党の支持は下がる傾向にある。最近の例でいえば、1月の総統選までの数カ月間に中国軍による侵入行為が続いたことが、頼氏をトップの座に就かせることになった。

今回の軍事演習の中国の狙いが、台湾の人々を脅し、中国政府に楯突く政党や指導者から離れさせることだとすれば、今のところ逆効果のようだ。

(英語記事 China's drills show it really doesn't like Taiwan's new president

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