小林久隆 「あまり言うと日本に入国できなくなる」と前置きしつつ成田悠輔に問われ日米の基礎研究の違いを明かす

未来の日本を作る変革者を、経済学者の成田悠輔が質問攻めにするトーク番組『夜明け前のPLAYERS』。第16夜のターゲットはがん治療研究者の小林久隆だ。小林は第5のがん治療法と呼ばれる「光免疫療法」を開発。2021年の保険適用以来、日本での臨床数はすでに500~600件を数える。一方、小林の立場はアメリカの公務員だ。そんな不思議な背景を成田が深掘りすると、日米の医学研究における展開の違いが見えてきた。

医学的な技術を世に出すための資金集め 「企業と話すなら日本、ベンチャーを起こすならアメリカ」

小林は京都大学医学部などを経て、2001年からアメリカ国立衛生研究所(NIH)に勤務している。光免疫療法の研究・開発でNIH長官賞を受賞するなどし、NIHでは今世紀初めての日本人テニュア主任研究員(終身研究員)となった。まさにアメリカの公務員だ。

ゆえに光免疫療法は、アメリカの国立の研究機関でアメリカから研究資金を得て研究・開発された。一方、臨床に持っていくための手続きは日本の民間資金で行われている。出資・支援したのは楽天グループの三木谷浩史。光免疫療法の治験がまだ始まっていない頃、ひょんな縁で三木谷にがん治療の話をしたことがきっかけだったと小林は語る。

成田は「医学的な基礎技術が世の中に出るまでの、手続き上の問題点は何か」と聞く。すると小林の口から最初に出てきたのは「アメリカのいい点は、ベンチャー企業がどんどん作られるところ」ということだった。

アメリカはベンチャー企業が資金集めをする仕組みが確立されている。「私たちも、ベンチャー企業に光免疫療法のライセンスを出して資金調達に奔走していましたが、アメリカは金額的にもやりやすいです」と小林。高額な投資をしてくれるところは多いのだそうだ。

ただ、アメリカのベンチャーキャピタル(VC)など投資側は、契約で研究を徹底的にコントロールすると言う。例えば「最終的に数百億円出すけれど、まずは1億円。それでうまく行ったら、その先の権限を全部渡すように」という契約。マイルストーンを勝手に設定され、達成できなかったらどんどん打ち切られる。そのため「事業がうまくいくかは出資者のコントロール次第というところがあるんです」と契約による不自由さを感じたようだ。

資金を出してくれるVCの数も金額も多いアメリカに比べ、日本は話を持っていけるVCがあまりないのだそうだ。その変わりアメリカに比べて大企業の上層部と話がしやすく、最終決定の仕組みも複雑ではない印象だとか。「企業と話すという点では日本がやりやすく、ベンチャーを起こすという意味ではアメリカのほうがやりやすい」と語った。

研究への評価やコントロールは日本よりアメリカのほうが厳しかった

さらに成田は、日米両方の研究機関を経験してきた小林に、基礎研究についての日米の違いを問うた。すると「研究費的には日本のほうが自由度が高いんですよね」と意外な答えが返って来た。

同時に小林は「あまり言うと日本に入国できなくなっちゃう(笑)」と本気とも冗談ともとれる発言を繰り返す。成田に「入国できない心配を今日5回くらいしていますよ」と笑われながらも、自身の実感を語り出した。

日本とアメリカの大きな違いは、評価システムだと指摘する小林。「例えば、アメリカでグラント(企業や行政から非営利組織への助成金や補助金)を取った場合、その後の研究報告書に少しでも変なことを書こうものなら次はない。一方、日本は取るところまでが大事で、その後の報告や評価は若干甘いと感じます。しっかりやったことを報告することや、評価してもらうことの難しさはアメリカのほうが厳しいと思うんです」

アメリカもグラント獲得に至るコンペティションは激しい。ただ、日本のほうが自由と感じるのは、日本ではある程度の有力者がグラントを獲得する傾向が強く、後の報告の甘さも合わせると権限を持っている人にとっては資金調達がしやすいだろうとの想定に立ってのことだ。成田も「一部の人たちへの資金の集中はものすごいですよね」とうなずいた。

さらに「自由の国アメリカが後評価やコントロールに厳しく、日本に自由度を感じられるというのは面白いですね」と成田。しかし、研究における自由度では日本は厳しいと小林は続ける。

「光免疫療法の研究のように何もないところから作ろうと思うと、資金以上に研究に自由度を持たせたい。そのためには独立しないと無理ですが、日本では結構厳しいんじゃないかなと思うんです。日本では、資金をマネジメントできる教授がある程度決まっている。だからある程度、その方に付いて研究しなければならないですから」

「逆にアメリカは、比較的若い頃から独立させてもらえるので、私たちは貧乏ラボで苦しかったですが、研究は自由にはできましたよ」と小林。「自由と言ってももちろん、きちんと報告できるような研究をやればという意味での自由。報告の義務はちゃんとあるし、後処理もちゃんとしないといけないです」と加えた。

「創薬や医療という世界は、ある程度“正義は勝つ”という世界だと思う」

「小林さんは医療の分野での市場や経済の力を信じていらっしゃいますか」成田は唐突に質問した。医療や教育は一般的な商材と違って、ほんとうに有益かを個々人が判断するのが難しい。「判断・理解できないことを利用して似非(えせ)治療や似非(えせ)教育が大量に蔓延(まんえん)している。その中で最終的に選ばれるかを指標にしていいのだろうか」という疑問があるようだ。

対する小林は「私のいる創薬や医療という世界は、ある程度“正義は勝つ”という世界だと思うんです」と胸を張った。「ちゃんとものを見てくれる人であれば、分かるというレベルと差ではっきりと合理的コンセプトがあれば選んでくれると思います」

「財力などバイアスがかかる場合もあるでしょう。でも、そういうものに打ち勝てるだけの実力差があれば、打ち勝てる世界かなという感覚を持っています」と力強く答えた。

本対談は『夜明け前のPLAYERS』公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が配信されている。

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