手作りの漬物 もう買えない?法改正で厳しい規制 出荷やめる農家も

 「6月から農家手作りの漬物は買えなくなるんでしょうか」。長崎市内の60代女性からこんな疑問が長崎新聞社に寄せられた。たくあんや梅干し、ぬか漬けなど漬物が人気商品という農産物直売所は多い。取材すると、改正食品衛生法による施設基準の厳格化で出荷を取りやめる農家が増えていた。

農家手作りの漬物が並ぶ店内。法改正による施設基準の厳格化で出荷を取りやめる農家もある=西海市、「とれたて処」西彼本店

 漬物の販売はこれまで届け出制だったが、2021年施行の改正食品衛生法で許可制になり、3年間の猶予期間も5月末で終わる。法改正のきっかけは12年に北海道で起きた集団食中毒。白菜の浅漬けを原因とする腸管出血性大腸菌O157で複数の死者が出た。
 県生活衛生課によると、営業許可を受けるためには▽専用の調理場の設置▽水回りの完備-などが求められ、例えば手洗い設備はセンサー式やレバー式などへの変更が必要になる。関係者によると、施設整備費が150万円程度との試算もあり、大きな負担だ。
 新鮮な野菜がそろう西海市西彼町の直売所「とれたて処」。責任者の山川邦夫さん(56)は「業者には出せない家庭で作られた昔ながらの味が消えてしまうかもしれない」。同店では5人が出荷していたが、6月以降に「減るのは確実」とみている。法改正に加え高齢化もあり、この機会に廃業を検討する生産者も少なくない。山川さんは「漬物を求めて訪れる客も多い。主力商品がなくなるのは店にとっても痛手だ」。
 佐世保市柚木町の農産物直売所「柚木よかもん市」も事情は同じ。次第に規制が厳しくなってきたことや高齢化が原因で店頭に並ぶ量はこの10年で3分の1程度に減った。開業時から勤めるベテランの女性店員は「今回の法改正でまた減ってしまう」と心配する。
 約20年前から漬物を出荷している同市内の60代夫婦は規制が厳しくなる度に設備を更新。近々営業許可を申請する。「楽しみにしてくれるお客さんがいるから10年以上は頑張りたい」と語る。一方で「あと何年続けられるか分からない人には難しい選択かも」
 同直売所の小川一久代表理事は「食品の安全はもちろん重要。ただ、費用的な負担は大きい。工場ではまねできない各家庭の隠し味があってそれぞれにファンがいる。時代の流れかもしれないが残念」と話した。
 新聞社に声を寄せてくれた長崎市北陽町の介護支援専門員、丸尾典子さん(63)は農家の漬物がお気に入り。「大きな会社しか漬物を作れなくなってしまったら味気ない。作る人と楽しみに待つ人の喜びが続いてほしい」と願った。

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