6年前も喜田拓也は優勝セレモニーをじっと見つめていた。不屈の男はこのままでは終わらない。必ず借りを返してくれるはずだ【コラム】

アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の決勝で、横浜はUAEのアル・アインに敗北。ホームでの第1レグは2-1で先勝も、アウェーでの第2レグは1-5の大敗。2戦合計3-6で、アジアの頂点に立つことはできなかった。

第2レグの試合後、現地で優勝セレモニーが行なわれる。トロフィーを掲げ、喜びを爆発させるアル・アインの選手たちを、横浜のキャプテン喜田拓也はじっと見つめていたという。

勝者へのリスペクトと、悔しい結末を真正面から受け止める姿勢――6年前がフラッシュバックする。

2018年。アンジェ・ポステコグルー体制1年目の横浜は、ルヴァンカップ決勝で湘南ベルマーレに0-1で敗れた。この時も、喜田は優勝セレモニーをじっと見つめていた。拍手するタイミングでは静かに両手を叩いて、県内のライバルチームの健闘を称えていた。

当時の心境を、喜田はこう述べている。

「スポーツなので、勝者がいれば敗者がいるのは当たり前。そういう考えを大事にしてきたし、湘南も身体を張って、勝ちたい気持ちを表現して頑張っていたと思う」

“準優勝”のメダルを大事そうに手に持っていた。

「F・マリノスとして苦しい戦いを続けてきたけど、チーム全員の力で勝ち上がってきた。決勝で負けたけど、これですべてが終わるかっていうと、そうでもない気がする。もちろん、勝てればこれ以上の幸せはないけど、ここまでみんなと来れたっていうのは、意味のあることなのかなって」

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湘南とのファイナルはベンチ入りも出番がなかった喜田は、将来を見据えて、言葉に力をこめる。

「時間が経って、あんなこともあったね、ではなく、この気持ちをずっと持てるような強い集団にしていきたいし、なっていくべきチームだと思う。F・マリノスはタイトルが似合うなって、言われるチームであるべき。現に、子どもの頃から見てきたF・マリノスはそうだったので」

翌年の2019年シーズンに、横浜は15年ぶり4度目のリーグ制覇を果たす。シャーレを誇らしげに掲げたのは喜田だ。22年シーズンもJ1を制すなど、近年の横浜は優勝争いの常連に。喜田は“強い集団”の先頭に立って戦い続けている。

ACL初制覇はクラブの悲願だったが、叶えられなかった。ただ、計り知れない無念さを発奮材料に、次に向かっていくエネルギーに変えられるのが、喜田という男だ。それはこれまでの歩みが証明している。

このまま終わるわけにはいかない。終わるわけがない。ACLの悔しさは、ACLで晴らすしかない。トリコロールの“魂”は、必ず借りを返してくれるはずだ。

文●広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

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