【虎に翼】張り詰めた戦いの連続だった本作で、出征前の優三(仲野太賀)と過ごした時間は、初めて見るキラキラした幸せな時間のように描かれた

「虎に翼」第40回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

★前回はこちら★

伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第8週「女冥利に尽きる?」が放送された。

このサブタイトルが、痛烈な皮肉となっている。言葉通りであれば、女性だから与えられた幸せだ。しかし、女冥利につきる、これまで女性であるからゆえの生きづらさ、女性が地位を自力で獲得していくことの難しさを掘り下げて展開してきたドラマが掲げる「女冥利」とは。

「社会的地位を得るための、結婚」
前週そう言い切り優三(仲野太賀)と結婚した寅子。社会的な信頼を獲得したのか依頼は次々に増え、忙しい日々を過ごしていた。寅子は背中に大きなものをたくさん背負っていると感じながら仕事をする。夢の途中で離れていかざるを得なかった仲間たち、女性であるがゆえに困難に巻き込まれる女性たちのために。

そんな寅子は、義父母から子供を取り上げられそうになっているという女性の依頼人にまんまとだまされ、誤った判決結果をもたらせてしまうという大きな失敗をしてしまう。

「やっぱり女の弁護士先生って手ぬるいのね」
依頼人に笑われたうえに、
「君の失態が、誰かの人生を狂わせたことを忘れてはいかん」
雲野(塚地武雅)の言葉が重く響く。

近年まで「女性の幸せ=結婚と出産」とする価値観は根強くあった。しかし、結婚・出産によって自分のキャリアが遅れをとってしまう、会社員の場合には出世にブレーキがかかる。育児休暇を男性もとれるようになったのなどほんの近年の話だ。女性としての幸せに、他の幸せが奪われることもある。「虎に翼」はその事実を残酷に突きつけてくる。

子育てとの両立に悩んだ末に、先輩の久保田(小林涼子)が弁護士をやめることを決意し、さらなるショックが寅子を襲う。「もう私しかいない……」ますます寅子の背負う荷物が重くなる。

そんな寅子を、ずっと見守る優三の優しい視線に初めて気づいた寅子は、自分のやすらげる場所があったことに気付く。手段としての結婚が恋心に変わり、やがて二人の間に子供が授かる。

結婚と出産。まさに「女冥利に尽きる」大きな出来事である。これまでの多くの朝ドラも、中盤のクライマックスとして描かれることは多く、子供が生まれたことで大きな幸せを得ると同時に「母」という立場となっての新たな展開へ、というのがお約束だった。

しかし、その「女冥利」とされてきたものが、残酷な現実を突きつけてくる。

妊娠によって身体には大きな負担がかかる。ある日、寅子が依頼された講演直前に体調不良で倒れてしまい、穂高(小林薫)が代役をつとめた。落ち着いた寅子に、穂高は出産・育児が第一のつとめではないかと優しく説得する。しかし、「私しかいない」と思い歩き続ける寅子は、自分が立ち止まってしまえば、女性が法曹界で活躍する道が途絶えてしまうと主張、出産ギリギリまで、出産後もすぐ復帰したいと主張する寅子に、「世の中そう簡単には変わらんよ」という穂高の言葉がとどめを刺す。

「虎に翼」第38回より(C)NHK

天命なのだと。雨垂れ石を穿つ。「私しかいない」と思い続けた寅子は、いつか石を穿つための雨垂れの一粒にしかすぎないのか、そう声を荒げる寅子にお腹の子にさわるといけないという返し方をする穂高。
「なんじゃそりゃ……」
寅子の中で何かの糸が切れた。その後も身重の身体をおしながらも弁護士業務を続けていた寅子だが、穂高によって妊娠は雲野たちにも知られてしまう。

「子育てに専念することも大事なことなんじゃないか」
雲野はやさしく提案する。もちろんここには悪意は全く存在せず、よかれと思っての提案だ。

「弁護士の資格は持っているのだから、仕事への復帰はいつだってできる」
穂高もそう説得するが、そんな前例があるはずもなく、復帰できる保証なんてどこにもない。

子供を授かることによって、もぎ取られた翼。運命はあまりにも残酷だ。
「お母さんが言っていた通り、歩いても歩いても地獄でしかなくて」

事務所に辞表を出す寅子。戦時下の大変な状況下ながら、自分の心に蓋をしたかのように平穏な家庭生活を送る日々がやってくる。

前述したように、朝ドラでは出産が大きな出来事として描かれることが多いが、この作品では至極あっさり。出産そのものは描かれず、気づけば寅子は赤ちゃんを抱いていた。これまでのお約束を徹底的に排除する描き方にも新鮮な驚きを感じる。

じわじわ悪い方向に進む戦局は、ラジオの放送や映り込む新聞記事などでさりげなく告げてくる演出により、不気味さが印象づけられる。兄の直道(上川周作)が、轟(戸塚純貴)が。次々出征していく。そしてついに、優三のもとにも召集令状が届く。

夢と仕事を奪われた寅子に、そこに触れずずっと優しく包み続けてきてくれた存在。戦争が優三との日々ももぎ取っていく。

出征前の優三と過ごしたおだやかな時間。それはずっと張り詰めた戦いの連続だった本作で初めて見るキラキラした時間のように描かれた。その幸せな時間が、ささやかながらもわずかなものであるからこそ、強く響く。

戦争によって、寅子を取り巻く人々の運命はどう変化していくのか。第9週の展開が気になるところだ。

「虎に翼」第40回より(C)NHK

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