長崎IR誘致、なぜ失敗?  事業者選定に疑問…多額の公金投入も「門前払い」

長崎IR事業者選定の審査結果

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)を長崎県佐世保市のハウステンボス(HTB)へ誘致する県の区域整備計画について、国は昨年末「資金調達が不確実」などとして認めず、誘致は失敗に終わった。計画を断念した県は今後、不認定について考察した最終報告書を公表する予定。県北振興の起爆剤にしようと多額の公費を投じた挑戦はなぜ失敗したのか。これまでの経緯や県が3月に示した報告書案などを基に検証した。

■“門前払い”
 昨年末、国は不認定の理由について、資金調達の確実性やIRを運営する事業者の実績が不十分などと発表。最低限の「要求基準」を満たしていないと判断し、具体的な項目を採点する「評価基準」の審査はしなかった。県担当者は“門前払い”に言葉を失った。
 県は、欧州を拠点とするカジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン(CAIJ)を事業者に選定して資金調達を任せた。不認定後の県議会では「事業者選定に問題はなかったのか」との指摘が出た。
 県は2021年1月に事業者の公募を開始。5グループが応じた。このうちCAIJのほか、オシドリ・コンソーシアム、ニキ・チャウフーの3グループが書類の1次審査を通過。プレゼンテーションを含む最終の2次審査でCAIJが選ばれた。
 当時の審査結果=一覧表=によると、不認定の理由とされた「財務能力」や「資金調達」の項目はニキとオシドリが優位。両者には香港資本や大規模なIRを運営した経験を持つカジノ企業が参加していた。CAIJは1次を3位通過。2次で危機管理体制などが評価されて逆転した。

長崎IRの全体イメージ(県提供)。誘致失敗により計画は幻に終わった

■意向反映か
 この結果は、地元の“意向”が反映されたという見方も。佐世保市は米軍や自衛隊施設を抱える「基地の街」。地元の経済界は米国や防衛省との関係を重視する。「経済安全保障を考慮し、中国系資本を避けたのではないか」と自民県議。審査ではグループ名を伏せて採点したが、CAIJの計画は欧州色が濃い特徴もあった。
 県は1次審査後に反社会的勢力の関与などを確認する廉潔性調査を外部に委託。関係者によると、ニキとオシドリは「問題があった」。両者は「事実無根」と反論。調査が採点に影響したと訴え、審査のやり直しを求める場面もあった。
 3月の県議会特別委員会では、県が事業者公募の際に「国の(詳細な)審査の基準や評価項目、配点などはまだオープンになっていなかった」と説明。申請の準備を急ぐ一方、どのような計画が高く評価されるのか正確に把握できていなかったことをうかがわせた。

■明暗分ける
 認定された大阪府・市は米大手のMGMリゾーツ・インターナショナルのグループとタッグ。関西を代表する電力や交通などの大企業が出資を表明した。これに対し、長崎IRは九州政財界でつくる「九州IR推進協議会」を設置して機運醸成を図ったが、社名を明かして資金援助する九州の有力企業は現れなかった。

長崎IR誘致の歩み

 また、長崎IRは資金調達で、国内外の投資家や企業に事業参加を呼びかけるプロジェクトファイナンスの手法を選択。欧米の金融大手が調整役となり、総事業費約4383億円に対し、1兆円以上のコミットメントレター(出資・融資の意思表明書)などを集めたとしたが、国は「法的拘束力がない」と退けた。
 世界的な実績を持つ米国のカジノ会社と地元有力企業の積極的な支援-。大阪のような分かりやすい事業態勢を構築できなかったことが、結果的に明暗を分けたといえそうだ。

◎急務の県北振興策 不認定の課題と責任残る

 IR誘致で県は多額の公金を投入した。市民団体からは「不要な支出」と訴えられて係争中。IRに代わる県北振興策が急務で、不認定の課題と責任が残る。
 県は誘致事業を本格化した2019年度から23年度までの5年間の見込みで約6億5千万円(人件費を除く)を支出。このうち約4億5700万円は国の交付金などを含まず、県単独で負担した。事業費の大部分は法務や財務で助言を受けるためのコンサルタント業務委託費で約4億1千万円を使った。
 市民団体「ストップ・カジノ!長崎県民ネットワーク」は22年に長崎IRの計画は資金調達が不確実で国の基準を満たさないとし、「業務委託費を支出する必要性はない」と提訴。県に損害賠償を求める訴訟が続いている。
 不認定の責任について、大石賢吾知事は2月定例県議会で「計画の申請者である県と事業者にある」と答弁。新たな県北振興策を打ち出す考えを示した。
 県と佐世保市は「IRのレガシー(遺産)を生かす」とし、IRを通じて関係を深めた九州経済連合会などでつくる実行委員会主催の国際自転車ロードレース「ツール・ド・九州」を同市へ誘致する意向を表明。ただ、IRほどの効果は期待できず、地元関係者からは「物足りない」との声も漏れる。

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