領土守る絶海の孤島 長崎の五島・男女群島など視察ツアー “国境の島”を再認識【ルポ】

男女群島の一つ、女島に上陸し国境離島の役割を再認識した視察ツアー。島内には溶岩地形の「柱状節理」の岩肌が多く確認できる=五島市、女島

 柱を束ねたような岩場がそびえ立つ姿は、まるで神殿のよう-。福江島から約2時間、絶海の孤島、男女群島の雄々しい自然に息をのんだ。
 領土保全や水産資源の確保に重要な役割を果たす「国境離島」。現状を把握しようと、長崎県五島市が市制施行20周年事業の一環として実施した男女群島と肥前鳥島の視察ツアーに記者も同行した。豊かな自然が残る島々は、領土を守る大切な基点。国境にある無人島の今を見た。

 男女群島は、福江島の南西約80キロに位置し、男島、クロキ島、中ノ島、ハナグリ島、女島の主要5島と岩礁で構成。全域が国の天然記念物に指定され、海鳥の繁殖地として鳥獣保護区になっている。

 女島に設置された女島灯台は1927年に初点灯。船舶の航行安全を確保し、気象観測データを提供している。男女群島を含め、北西に位置する肥前鳥島は、領海や排他的経済水域(EEZ)を決める基点。好漁場として知られる周辺の海洋資源の利用など、海洋政策上の重要な役割を担っている。
 24日午前9時半、五島市民や市職員ら計約50人は、市がチャーターした3隻に分乗し福江港を出た。うっすらと雲がかかっていたが波は静か。早くも火ノ岳、鬼岳、箕岳、臼岳といった火山活動が造り出した山々が見え始めた。福江-長崎間の航路しか利用したことがない記者にとって、右舷側に日本ジオパークの光景を望むケースは貴重な体験だ。

 ■溶岩が柱に
 午前11時ごろ、男島に差しかかると、溶岩地形の「柱状節理」が姿を現した。「溶岩が凝固する時、均一に収縮し六角柱や五角柱の規則性ある形になるんです」。解説してくれたのは市ジオパーク専門員の髙場智博主査。風雨や荒波に削られ続ける自然の造形美に圧倒され、夢中で撮影した。

 ■漂う緊張感
 出港から約2時間後、女島に到着した。植生を壊さないよう種子などを落とす含水マットを踏み上陸。急峻(きゅうしゅん)なつづら折りの山道を20分ほど進むと女島灯台が見えてきた。入り口近くの標識には中国語と韓国語で「ここは日本の領土。許可なく上陸すれば日本の法律により逮捕する」。“国境の島”の緊張感が漂う。

柱状節理の岩肌と緑のコントラストが美しい女島の西側=五島市、女島

 要塞(ようさい)のようにコンクリートの壁に囲まれた灯台敷地に入る。灯台の高さは海面から約120メートル。光は約40キロ先まで届く。断崖に建設された灯台から望む360度のパノラマは絶景だ。雄大な柱状節理の岩肌と新緑とのコントラストは見事で、時間を忘れて見入った。
 長崎海上保安部の浦川和久次長によると、女島灯台は職員3、4人が半月交代で住み込み、維持や管理をした国内最後の有人灯台だった。灯台守夫婦を主役とした1950年代の映画「喜びも悲しみも幾年月」の舞台となったこの灯台も、太陽光発電装置の整備で自動化され、2006年に無人となった。
 運用室には、海図や風向風速記録計などの機器が当時のまま残る。天井は雨漏りの染みが目立ち、灯台まで上る鉄製の階段はさびて心もとない。「見学は今回が最後かもしれません」。浦川次長の言葉が時の流れを物語る。

断崖に立つ女島灯台。風雨に耐え、約40キロ先まで照らし、航行する船を導く=五島市、女島

 ■領海の基点
 サンゴの漁場として知られる周辺海域では明治期、荒れる海で多くの人が犠牲となった。供養塔の「千人塚」がある男島西側の入り江近くまで寄ったが、船上からは確認できなかった。久保実副市長が献花し、全員で黙とう。この日の穏やかな海から想像もつかない悲惨な海難事故に思いをはせた。
 最後の目的地は、福江島から約70キロの肥前鳥島だ。男島から約30分ほどで三つの岩礁群が見えてきた。北小島、中小島、南小島の名称で、標高は7~16メートルほど。住所は「五島市浜町」で、日本の領海、排他的経済水域(EEZ)の基点となる。「あの島々のおかげですよ」。浦川次長の言葉に、無人の孤島が、国の権益保全に貢献していることを再認識した。

東シナ海に浮かぶ肥前鳥島。右から北小島、中小島、南小島=五島市

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