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首都台北から時計回りに台湾を一周しながら食べ歩きする旅も終盤にさしかかった。第二の都市高雄で1泊したあとは、大好きな台湾食材を求めて日本ではほとんど知られていない町を目指して北上する。
【全画像】台湾・岡山駅員おすすめの「ヤギ肉店」メニュー・外観
羊肉(ヤンロウ)=ヤギ肉の美味しい町
好きな台湾の食べ物のなかでも上位に入るのがヤギの肉だ。
日本ではラムやマトンがよく食べられているが、台湾ではヤギが主流。味はラム肉とあまり変わらず、新鮮なものはくさみがなく、どう調理しても美味しい。
高雄や台南など南部の都市では特に好んで食べられている。
ただ、台湾産の新鮮なヤギ肉は高価で、生産量もコントロールされているので実際はなかなかお目にかかれず、ニュージーランドやオーストラリア産の冷凍ヤギ肉やラム肉が多く消費されているのが現状だ。ここでは、こうした肉をひっくるめて台湾風に羊肉(ヤンロウ)と呼ぶことにする。
高雄近郊には羊肉で有名な街、岡山(ガンシャン)がある。羊肉好きなら一度は行ってみるべきところだ。私はたいした情報もないまま高雄から台湾鉄路に乗り込み、岡山駅で下車することにした。
平日の午前中、各駅停車は空いている。そこに大きなリュックを背負った男性2人が乗り込んできた。60代だろうか、その風貌からして登山家に見えなくもない。
すると1人がリュックからおもむろに缶ビールを取り出し、座席でプシュっと栓を開けて飲み始めた。日本人に違いない。台湾の列車でビールを飲む台湾人は珍しい。
日本なら新幹線やJRのグリーン車で缶ビールやハイボールを開ける人は珍しくない。今回は私も気ままな台湾一周旅だが、この日本人2人組はさらに自由に鉄路で行き当たりばったりの旅をしているようだった。
「こんにちは。日本の方ですよね?」と話しかけ、羊肉を食べに岡山へ行くのだと伝えると、「へえ、それもいいなあ。降りてみようかな」なんて言う。
岡山駅は、想像通りやや閑散とした南部の町、という雰囲気。ただ、駅前で何やら大がかりな工事をしていて、高いところまで足場が組まれている。
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聞けば、地下鉄の駅を増設しているのだとか。高雄のMRT(都市鉄道)は長らく縦横に交わる橙線と赤線の2路線だけだったが、今は緑色のライトレール(環状線)も加わった。
赤線の最北端は岡山南駅だが、さらに北にある岡山駅にMRT駅の増設工事をしているということは、ここまで路線が延びてくるのだろう。
台北もそうだが、MRTがつながると郊外までの移動がぐんと便利になる。今はアカ抜けない岡山にもチェーン店がたくさんできて、よくもわるくも地方都市らしくなってくるはずだ。
駅員さんおすすめの店へ
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岡山駅で荷物を預けるついでに、駅員室で「おすすめの羊肉店は?」と聞いてみると、駅員が4、5人集まって、「やっぱり老舗のあそこだろう」「いや、俺はこっちのほうが好きだ」「その店はまだ営業前だ」などと議論が始まった。
いずれも屈指の人気羊肉店のようだ。岡山市民が羊肉好きなことはわかったが、なぜ岡山が羊肉で知られているのかと尋ねると、みんな首を傾げてしまう。
てっきり近くに牧場があるのかと思っていたが、それだけではないようだ。
気温は25度だが、まだ体が暑さに慣れていないせいか、高い湿度のせいか、ふうふう言いながら羊肉店まで10分ほど歩いた。
岡山が羊肉(ヤンロウ)=ヤギ肉で有名なわけ
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目当ての店に近づくにつれて、雑貨店や飲食店が多くなっていく。どうやら朝市の近くらしい。これは期待できそうだ。まだ午前中の早い時間なので、市場は混雑のピークだが、周囲の飲食店は開店前。羊肉の店も数軒あるが、シャッターが閉まっている。
そのなかで、駅員さんイチオシの店だけが忙しそうに仕込みをしていた。さっそく開店したばかりの「正宗羊肉店」に入ってみる。専門店だけあってメニューには「羊肉」の文字がずらり。
まずは大骨湯(骨付き肉のスープ)を注文する。いかつい骨の周りによく煮込まれた羊肉がくっついている。手づかみでかじると、するっと肉が剥がれ落ちる。何時間煮るのだろうか? しっかりと味が染みている。今回の旅で初めての羊肉だ。
もうひとつは炒めものを注文した。羊肉といえば沙茶(サチャ)と呼ばれるカレーのようなスパイス炒めが一般的だ。
臭みのある羊肉に、香りを加えてごまかす意図があるのかもしれないが、クセの強い羊肉と南国の強烈なスパイスの香りの組み合わせは一度食べたら忘れられない。
沙茶のタレは我が家の冷蔵庫にも常備してあり、ときどき炒めものに使って台湾の味を楽しんでいる。
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店の人に、なぜ岡山は羊肉で有名なのかと尋ねると、アルバイトらしき若い従業員は首を傾げ、店長を呼んできた。「ヤギ牧場が近くにあるんですか」と聞くと、店長は首を横に振る。
岡山の羊肉が有名なのは、実は肉ではなくタレのおかげ。岡山の羊肉食堂では豆板醤と味噌を合わせたような独特のタレが出てくる。実はこのタレ、戦後すぐに国民党政府とともに台湾に渡った四川の人々が作ったものなのだ。
いつからか、この豆板醤を羊肉につけて食べるようになり、メディアなどで取り上げられるようになってから、岡山=羊肉というイメージが定着したとか。
この店の羊肉が国産なのか輸入なのかは定かでないが、沙茶以上に肉の香りにマッチする「岡山豆板醤」が岡山の羊肉食文化を支えているのは確かなようだ。
(つづく)
(うまい肉/ 光瀬 憲子)