県内最後の百貨店、経営再建へ一歩 事業再生ADR成立 従業員や店舗の今後…山形屋再生計画の骨子明らかに 6月中に持ち株会社化

事業再生ADRが成立した山形屋=28日、鹿児島市金生町

 老舗百貨店の山形屋(鹿児島市)は28日、申請していた私的整理の一種「事業再生ADR」が成立したと発表した。同日あった最終債権者会議で、鹿児島銀行を含む全17金融機関が事業再生計画案に合意した。今後5年間、計画に沿って経営再建を進める。

 計画では、組織・人員体制のスリム化、不動産売却などを柱として、事業見直しと財務健全化を目指す。従業員の解雇や主体的な退職を募る希望退職は実施せず、正社員の自然減とアルバイトの低減で人件費の削減を図る。宮崎と霧島、薩摩川内、日南各市の百貨店舗の閉鎖は予定していないとしている。

 計画では、5年後の2029年2月期決算でグループ売上高720億円、営業利益16億円、営業利益率2.3%を目指す。6月中にグループ全体をホールディングス化。代表権を持つ取締役社長は創業家の岩元純吉氏。修士氏は取締役として引き続き経営に携わるが、取締役会長といった役職に鹿児島銀行などからの出向者を据える。

 山形屋の金融機関への負債総額は約360億円。支援の内訳は、債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ、DES)が約40億円、返済が猶予される債務の劣後化(デット・デット・スワップ、DDS)が約70億円。

 鹿銀を含む金融機関は23年5月から、山形屋グループ全24社のうち山形屋や宮崎山形屋、山形屋ストアなど17社の返済を猶予し、再建計画を協議してきた。同年12月28日には事業再生ADRを民間の第三者機関へ申請。今年に入り債権者会議を4回開き、事業再生計画案の概要説明や内容を協議してきた。

◇経営改善への体制整う

 山形屋の岩元修士社長「策定した事業再生計画は、取引金融機関からの同意を得て成立し、当社グループの経営改善に向けた体制が整った。先般の報道を受け、たくさんの応援の言葉を寄せてくれたお客さまや取引金融機関の期待に応えるべく、責任をもって取り組む。今後とも変わらぬご愛顧をいただきたい」

◇唯一無二の財産支える

 鹿児島銀行の郡山明久頭取 「地域のあらゆる世代にとって生活や文化を支えてきた百貨店であり、鹿児島、宮崎のシンボルとなる唯一無二の財産。今後も南九州の都市機能の発展に欠かせない存在。従業員雇用や取引先に与える影響も大きい。これからもメイン行として取引金融機関とともにしっかり支えていきたい」

 山形屋 1751年に紅花仲買と呉服行商として創業。1917年に株式会社化し本格的に百貨店業をスタートさせた。県内外に店舗を拡大しながら物産展や文化催事などにも取り組み、冬の風物詩になっている「北海道の物産と観光展」は道主催の物産展として売り上げ日本一を2022年までに34回記録した。グループ企業に川内山形屋や山形屋ストアなど23社をもつ。

 事業再生ADR 過剰債務を抱えた企業の私的整理手続きの一つ。ADRは「裁判外紛争解決手続き」の意味で、裁判所ではなく国が認めた第三者機関が金融機関など債権者の調整役を担う。通常の私的整理と同様に企業は事業を継続できる。早期の事業再生を図れるとされる。債権者全員の合意が必要なため話し合いがまとまらない場合がある。

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