愚直な警官×闇堕ち青年の数奇な20年を描く傑作ノワール『狂飆<きょうひょう>』日本初放送!善悪の曖昧さを突きつける大作ドラマの魅力を解説

中国で社会現象になった傑作ノワール

近年、中国ではノワール劇が増えており、中でも「掃黒劇(そうこくげき)」と呼ばれる社会悪との戦いを描く作品が人気を博している。その「掃黒劇」の中で2023年に社会現象となったドラマが『狂飆<きょうひょう>-End of the Beginning-』だ。タイトル通り「狂飆」=「荒れ狂う大風」のごとく中国で一大旋風を起こした。

その内容をザックリと説明すると、過去の大規模な汚職疑惑の調査を軸に、情に厚く正義感に溢れる刑事と、彼に一度は救われながらも足を踏み外し裏社会でのし上がっていく男性の20年にわたる数奇な運命を描いた物語である。先の読めない展開、2つの時間軸、2組の男たちと見どころいっぱいだが、本作を「傑作ノワール」と言わしめたのは、なんと言っても “善” と “悪” の描き方にあった。

愚直な若手警官と闇堕ちした青年の物語

舞台は2021年、架空の都市・京海(ジンハイ)。物語は過去の汚職疑惑の調査のために調査チームが派遣されたところから始まる。その最大の調査対象が、地元ゼネコントップにして市の人民代表などの要職に就く高啓強(ガオ・チーチャン)。調査チームは、京海には高啓強を中心に地元政治家や警察も与した大規模汚職があると見て調査を進めていくのだ。いったい高啓強とは何者か。手がかりを得るべく調査チームが接触したのが、本作のもう一人の中心人物、元刑事の安欣(アン・シン)だ。

安欣は一見、風采が上がらないように見えるが、元は正義感に溢れた刑事で、悪事に手を染める以前の高啓強を知る人物でもある。物語は2つの時間軸――汚職捜査の「現在」、そして闇に堕ちる高啓強と警察組織の中でもがく安欣との奇妙な縁を描く「過去」が絡み合いながら進んでいく。

本作における“善” はもちろん汚職の調査チーム、そして彼らに協力することになった安欣。そして “悪” は汚職の関係者であり、中でも高啓強は巨悪中の巨悪だ。現実の中国で、反腐敗作戦に相当力が入れられていることを考えると、高啓強の悪事が暴かれ、関係者は逮捕され、安欣は刑事に復帰してスカッと大団円……と予想してしまうが、この予想は大きく裏切られた。これだけ “善” と “悪” の対立構造がありながら、シンプルな勧善懲悪には終わらなかったのである。

善悪の曖昧さが心を揺さぶる! 極悪人も一人の人間として描写

当初の高啓強は、喧嘩っ早いところがあっても善良な市民だった。だが彼は安欣に助けられたことで運命が変わっていく。周囲に安欣が“地元公安局の副局長の甥”だと知れると、高啓強のもとに安欣との関係を利用したいチンピラが集うようになり、彼は裏社会と接点を持つようになったのだ。

生きていくためには、裏社会を登り詰めるしかないのか……。この過程が淡々と語られたことで、彼に共感とまでは言わなくても、「自首して!」「今なら引き返せる!」と思わず心を寄せてしまう視聴者が続出。悪であるはずの高啓強サイドの悲しみに、なぜかこちらも悲しくなる。この高啓強を悪の象徴ではなく人間として描いたことが、彼らの悲哀を一層引き立て、本作をより胸に迫る物語にしていった。善悪とは、なんと曖昧なものなのか。

また、安欣との関係性にも注目したい。2021年までの間に高啓強は何件かの大きな事件にかかわり、安欣と対峙しているが、誰もが見過ごしてしまう高啓強の策略を安欣だけが見抜いていた。皮肉なことに、高啓強を最も理解しているのが、敵である安欣なのだ。そして逆もまた然り。深く理解し合っているのに、決して相容れることはない二人。「違う出会い方をしていれば友になれたのではないか」という<If:もしも…>さえ考えてしまうだろう。

鮮やかな脚本! 事件を追ううちに怒涛の伏線回収へ

『狂飆<きょうひょう>』は全39話で、現在と2つの過去、主に3つの年代が描かれている。汚職捜査の2021年、安欣と高啓強が出会い、高啓強が裏社会で地盤を固める2000年、高啓強の権力掌握と政治家や警察との癒着が進む2006年。それぞれの時代で大きな事件が起きるのだが、この複雑に絡み合うストーリーと人間関係を、すっきりまとめたのは脚本の鮮やかさが光る点だ。

作品全体を見ると、安欣と高啓強を中心として3つの時代それぞれが13話前後で描かれ、そのつなぎ役として2021年の調査チーム視点が入るという構成。各パート、つまり事件ごとに区切りがあるため、各年代を単独ドラマを見るような心持ちで視聴ができ、そうしているうちに、気がつくと2021年で怒涛の伏線回収が。何気なく見ていた点と点が終盤にどんどん結びついていく様子は、全く清々しいものである。

しかし『狂飆』は、巨悪を追い詰めただけでは終わらない。ネタバレになるので詳細は控えるが、中国の腐敗に対する裁きは容赦ないのだ。実際に贈収賄罪には厳罰が科され、特に収賄罪の最高刑は死刑。それは悪の組織だけでなく、地元行政のトップだろうと大企業のトップだろうと、警察官だろうと裁かれるときは裁かれる。『狂飆』はフィクションではあるが、中国社会の一つの姿勢を垣間見せてくれているのだ。

イケオジ・バディにも注目! 脇を固める個性豊かな登場人物たち

本作には実力派キャストが勢揃いしたことでも話題になった。愚直な警官・安欣を演じたのは、映画『崖上のスパイ』(2021年)に主演し高い評価を得たチャン・イー。高啓強役のチャン・ソンウェンも『修羅の街、飢えた狼たち』(2021年)、『バッド・キッズ 隠秘之罪』(2020年)などに出演する、中国クライムサスペンスの雄である。

そんな二人の脇を固めるのが個性豊かな登場人物だ。例えば、主に2021年パートに登場する汚職調査チームのチーム長・徐忠(シュー・ジョン)&副チーム長の紀澤(ジー・ゾー)。このイケオジバディは、互いに信頼し合う爽やかな関係性を持つ。さらに日常パートではちょっとしたわちゃわちゃ感も見せてくれ、犯罪渦巻く展開の中での一服の清涼剤となっている。シリアスさとお茶目さを併せ持つ二人を演じたのは、『慶余年 ~麒麟児、現る~』(2019年)に陳萍萍と梅執礼役で出演していたウー・ガンリー・ジエンイーだ。

また本作を支えた女性キャストの安定感にも注目したい。まず安欣の幼馴染・孟鈺(モン・ユー)役で出演したリー・イートンはラブロマンス劇のヒロインとしても活躍中だが、本作ではノワールのヒロインにふさわしい強さと落ち着きある演技で物語により深みを与えてくれた。

そして高啓強の妻・陳書婷(チェン・シューティン)を演じたガオ・イエは、本作で大ブレイク。裏社会のボスの妻という人生を背負い、賢く強く生きる彼女は視聴者に大きな印象を与えた。また、レトロなヘアスタイルと極道の姐御ファッションも注目され、陳書婷風の真っ赤なリップが流行。SNSでは「姐御系インフルエンサー」と呼ばれるほどの人気キャラとなっている。

ストーリー、登場人物の関係性、そしてファッションと中国で大きな旋風を起こした『狂飆』。単純な勧善懲悪を脱却し、“悪” の人間性や “善” の脆さに焦点を当てたことでより深く心に刺さる作品だ。皆さんにも、ぜひこの新時代の中華ノワールを堪能してみてほしい。

文:沢井メグ

『狂飆<きょうひょう>-End of the Beginning-』(全39話)はチャンネル銀河で2024年6月6日(木)より放送スタート(月~金 13:00~14:00)、スカパー!第1~2話無料放送あり/第1話先行放送:6月2日(日)21:00~22:00

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