青山剛昌の出世作『YAIBA』は、少年漫画のすべてが詰まった大傑作だった

今回紹介するのは、30年ぶりの再アニメ化が発表されたあの作品!

年間数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事に沿った漫画を新作・旧作問わず取り上げる本連載「漫画百景」。第三十八景目は『YAIBA』です。

青山剛昌さんが『名探偵コナン』の連載前に手がけた冒険活劇で、連載終了からすでに31年経っています。そのため「青山剛昌さんといえばコナン!」という人も多いはず。

たしかにそうかもしれません。しかし、絶対に忘れてはいけない作品があります!

捻くれた人の多いKAI-YOU編集部には「『YAIBA』こそ青山剛昌さんの代表作!」と推すメンバーも少なくありません。

5月8日には30年ぶりのアニメ化が決定し、根強い支持を集めるそんな『YAIBA』を、今改めて読むべき漫画として紹介します。

青山剛昌の名を世間に知らしめた漫画『YAIBA』

『YAIBA』は、1988年から1993年まで『週刊少年サンデー』で連載された漫画です。

主人公の少年・鉄刃(くろがね やいば)とライバル・鬼丸猛(おにまる たけし)の戦いを中心に、世界中を巻き込む、スケールの大きな冒険活劇が描かれました。

1992年に第38回小学館漫画賞の児童漫画部門を受賞。1993年には、『剣勇伝説YAIBA』のタイトルでTVアニメ化されています。

ちなみに、青山剛昌さんは『YAIBA』の連載前に、怪盗キッドが登場する『まじっく快斗』を発表しています。

同作は今も不定期連載中。実は青山剛昌さんの作品として『名探偵コナン』をも超える、最も連載期間が長い漫画となっています。

時代は巡り、青山先生といえば『名探偵コナン』と『まじっく快斗』というイメージは強くなっていると思います。

主人公・刃と宿命のライバル・鬼丸の戦い

『YAIBA』は、父・剣十郎と、どこぞのジャングルで修行していた刃が日本へ飛び、ヒロイン・峰さやかの家に転がり込むところからはじまります。

ジャングルで育った野生児の刃は、常識も社会もなにも知りません。パトカーを破壊するわ、学校の屋上から人を蹴落とすわ、好き勝手に過ごす問題児っぷりを発揮します。

そんな彼が変わるきっかけが、作中で最後まで激闘を繰り広げる鬼丸と出会いです。風神の力が宿る魔剣を持った鬼丸に完敗を喫した刃は、剣の道を極めるため修行の旅へ。

対する鬼丸は風神剣の力によって鬼化。日本征服に乗り出します。その後、幾度となく剣を交える2人は、時に共闘し、時に真剣勝負で命をやり取りする宿命のライバルとなるのでした。

※以降、ネタバレを多数含むので未読の方はご注意ください。

漫画としての骨子が完成していた序盤

本作は序盤から終盤にかけて、作風が大きく変わっていった漫画です。

序盤は刃と鬼丸のライバル関係を中心にしつつ、カエル男クモ男など、ユーモアのある造形をした怪人が多数登場するような、コメディタッチな作風でした。

刃が400年に渡り誰にも使えなかった魔剣の主になる王道の展開や、鬼丸が刃に向けて送り出す怪人たちがみんな間抜けだったりする、明るい「スーパー戦隊シリーズ」のような雰囲気があります。

宮本武蔵佐々木小次郎といった、実在の剣豪も超展開の力技で登場。コミカルさも兼ね備えた彼らの存在は、名脇役として終盤まで作品を支えました(柳生十兵衛をモデルにしたキャラクターや、沖田総司の子孫も出てきます)。

初期から最後まで活躍する大半のキャラクターも出揃っており、漫画としての骨子は初期で完成していたように思います。

ヒロイン・さやかとのロマンスも描かれた中盤

しかし7巻半ばからの中盤にかけては、シリアスさが増していきます。

火や水の能力を剣に付与するアイテムを探す冒険譚や、能力バトルの様相を呈していくバトルシーンの変化は子供心をワクワクさせる一方、刃の流血がより明確に描写されるように

大切な仲間との別れというシビアなシーンもありました。刃vs鬼丸の関係図に第三勢力が加わる13巻以降は、シリアスさの度合いがさらに加速。

それまで賑やかし役だったヒロイン・さやかの存在感も強くなっていき、刃とのロマンスも本格的な描写が増えていきます。

刃がさやかに告白するシーンのカッコ良さったら最高です

地球規模から刃個人にまで、物語のスケールを変化させた終盤

また、この辺りからバトルの規模がどんどん人間離れし、空を飛ぶのは当たり前。大技を放てば大地を削り取り、果てには地球を破壊する威力を持つ豪快な必殺技も出てくるようになります。

いわゆるバトル漫画のパワーインフレです。

豪快な技をぶつけ合う超絶怒涛のバトルは、近年の漫画ではあまり見なくなったものですが、少年漫画といえばコレという豪気な展開は、それはそれで魅力的です。

そして、本作が凄いのが、インフレの元になる魔剣を手放さざるをえない展開にして、キャラクターの戦闘能力をリセットしたことです。

身体能力は超人的であるものの、刃をはじめとしたキャラクターを、自然と人間の枠に収め直すことに成功しました。

剣道からはじまり、地球全体を巻き込む戦いを経て、「本当の侍とは、強さとは何か?」と刃が自分の進むべき道を問う。刃のごく個人的な問題に、物語のスケールが収束していくコントロールは絶妙でした。

鬼丸との最後、原点回帰の戦いに熱くなった読者も多いと思います。

昭和~平成の名作が令和にアニメ化されるとどうなる?

『YAIBA』は、真っ直ぐで、腕白で、ちょっと助平で、誰よりも頼りになる主人公・刃のキャラクター。ライバル・鬼丸をはじめとした手強い悪役とのバトル。ギャグにまみれた日常パートと日本中を旅する冒険。ヒロイン・さやかとの淡い恋愛模様……少年漫画の魅力が全部詰まっています。

爽快なラストで最終回を締めたのも印象的で、シリアスな終盤の雰囲気を一変し、最後の最後に童心を思い出させてくれました。

昭和の終わりから平成の初期にかけて、少年漫画の正道を最後まで突っ走った名作です。

青山剛昌さんのシナリオ完全監修で、令和の今“完全アニメ化”すると、本作はどんな作品になるのか? 旧アニメでは描かれなかったかぐや篇の先まで映像化されるのか? 大いに期待して待ちましょう!

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