山下智久『ブルーモーメント』おもしろいのに評価がいまいちの謎…「山Pのキムタク化」が原因か

『ブルーモーメント』制作発表に出席した左から夏帆、水上恒司、山下智久、出口夏希、岡部大

山Pこと山下智久が、旧ジャニーズ退所以来初となる、5年ぶりの民放連ドラ主演で大きな注目を集めた『ブルーモーメント』(フジテレビ系)。

5月22日(水)に第5話まで放送されているが、評判があまりかんばしくない。

視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は、

第1話:世帯8.6%/個人4.8%
第2話:世帯8.4%/個人4.8%
第3話:世帯6.9%/個人3.8%
第4話:世帯5.6%/個人3.2%
第5話:世帯6.1%/個人3.5%

と推移。第2話までは堅調だったが、第3話以降で何割かの視聴者が離れていることは明白である。

見逃し配信の人気の指標となるTVerのお気に入り数は、97.1万(5月27日現在)とまずまずの数字で健闘している。そのためコケているとまでは言えないのだが、スタート前の期待値の高さから考えると、もの足りなさは否めない。

ただ、本作はキチンとおもしろい。とてもていねいに作られたドラマだと感じるし、ストーリーも毎回緊迫感があって良質な作品に仕上がっている。

■過去のヒット作に酷似…だがそれは表層的な問題?

山下が演じるのは、気象学のプロフェッショナル・晴原柑九朗。

近年多発している気象災害における被害拡大を防ぐため、内閣府直属のチームとして結成された「SDM」(特別災害対策本部)の気象班チーフ。災害現場に駆けつけて指揮を執る、現場のリーダー的存在だ。

第4話までに、それぞれが抱える問題や晴原との対立を乗り越え、晴原の助手(出口夏希)、消防班チーフ(水上恒司)、医療班チーフ(夏帆)らが仲間に。

先週放送の第5話では、警察班チーフ(橋本じゅん)がSDM入り。晴原と救助方針で衝突しながらも、被災者たちの命を無事に救い、打ち解けていった。

主人公・晴原の天候予測の分析があまりに的確で、さすがに天才的すぎやしないかという気もする。けれど、それ以外はリアリティがあるし、チープさは感じない作り込みがされており、毎回スリリングな人命救助劇が展開され、物語にも引き込まれる。

消防班チーフや警察班チーフは晴原と対立することも多いが、お互いが信念を貫こうとする正義と正義のぶつかり合いになっており、胸アツなのだ。

そんな良質な作品となっている『ブルーモーメント』の評価がいまいちなのは、第1話から指摘されていた “あること” が原因だろう。

『ブルーモーメント』は初回放送直後から、山下の代表作である『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』シリーズ(2008年、2010年、2017年/フジテレビ系)と、鈴木亮平が主演した日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(2021年/TBS系)に酷似しているとの指摘が相次いだ。

類似点は割愛するが、たしかに『ブルーモーメント』はその2作品のいいとこ取りをしようとしている感はある。過去のヒット作に似ていること、特に山下自身の代表作との類似点が多いことで、既視感が出まくっているのが、低評価につながる理由だろう。

しかし、それらはあくまで表層的な問題点にすぎず、筆者はさらに根深い問題があるのではないかと感じている。

■「なにをやっても山P」状態は本人だけの責任ではない

もっと根深い原因、それは山Pに「キムタク化」の兆候があることだ。

旧ジャニーズの山下の大先輩である木村拓哉は、1990年代から現在まで連ドラ主演を続けており、何作も大ヒットドラマを生み出してきた。だが、振り返ってみるとキムタク主演ドラマは、ここ十数年、社会現象化するほどのムーブメントを巻き起こしていない。

キムタク人気で視聴率がいいドラマはいくつもあったが、中身の評価はスマッシュヒット程度。それどころか、数字はそこそこよくても内容が酷評されまくる作品も少なくなかった。

それは、木村があまりに偉大すぎて、ドラマ制作陣もキムタク陣営も「失敗は許されない」と気負ってしまい、攻めた作品を作りづらい空気感が蔓延してしまったからではないか。

もちろん、「驚くほどおもしろい作品にして成功させよう!」という気概もあるだろうが、それ以上に「失敗してはならない」という、後ろ向きな気持ちが強すぎて、結果的にチャレンジングな作品にできていないように思う。

また、木村のドラマは「いかにキムタクをかっこよく見せるか?」の優先順位が高すぎて、主人公がダサく見えるシーンはなかなか入れられない。結果、王道でありきたりなヒーロー像になっている気もする。

ひと言で言うと、安全策に終始している。キムタク個人の人気に依存して、制作陣がクリエイティブ性をなかば放棄しているようなもので、ひどい大コケはしないもののブームを巻き起こす大ヒットも生まれないジレンマがあるのだ。

木村が「なにをやってもキムタク」と揶揄されてしまうのは本人の演技の問題だけでなく、攻めた主人公像を描けない制作陣にも問題がありそうだ。そして、それと同じような現象が山下でも起きているのではないか。

実際、『ブルーモーメント』は『コード・ブルー』に似すぎていて、ネットでは「なにをやっても山P」という声もあがっている。

ただ山下の場合、ジャニーズ退所後にNHKで主演した『正直不動産』シリーズ(2022年、2024年)をヒットさせた例がある。

こちらで演じたのは、性格が悪くウソをつきまくって成り上がった主人公で、タワマンにもう一度住むことを目標にしている欲まみれのキャラクター。きちんとダサさや強欲さを描いたことで人間味のある主人公像になっており、山下の新境地を開拓した。

今回の『ブルーモーメント』では “キムタク化” の傾向が見られたが、今後、山下にはリスクをおそれずに、『正直不動産』のように固定観念をぶっ壊す役柄にもどんどん挑んでいってもらいたい。

『ブルーモーメント』は、過去のヒット作と比較せずに評価するなら、ちゃんとおもしろいドラマになっている。今夜放送の第6話はフラットな気持ちで視聴してみてほしい。

堺屋大地

恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中

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