老舗和菓子店「柳月堂」の店主に話を聞いてみた 130年の歴史を紡ぐ銘菓と貴重な鉄道グッズ【北九州市門司区】

ノスタルジックな建物が並び、「門司港レトロ」として人気を集める門司港。

かつて港町として栄えたこの地は、輸出入された物品を輸送するための「鉄道の町」でもありました。九州最初の鉄道会社である「九州鉄道会社」もこの門司港に本社を構え、現在もJR九州鹿児島本線の起点駅として有名です。

そんな門司港で、いつものように散策していたところ、門司港から徒歩10分ほどの栄町商店街で気になる和菓子屋を発見。一見普通の和菓子屋のようですが、お店の外から大量の鉄道グッズが見えるのです。

北九州ノコト編集部では早速、その和菓子店「柳月堂」の店主に直撃取材。鉄道グッズ収集歴は半世紀近くという店主・石井さんにお話を伺いました。

創業103年 看板商品は130年続く由緒正しき味

今回お話を伺ったのは、「柳月堂」店主の石井さん。壁一面にかけられた鉄道グッズを集めた張本人でもあります。「柳月堂」は石井さんの祖父の頃に開業し、現在3代目です。

まずはお店自慢の和菓子について伺いました。おすすめは一番古くからある「めかり饅頭」。可愛らしい一口サイズで、こしあんとつぶあんの2種類があります。130年以上続く由緒ある和菓子です。

めかり饅頭の始まりは、港や鉄道が門司港にでき始めた明治24年頃。荷物の積み下ろしを行う労働者が英気を養うことができるようにと、手軽に食べられる一口サイズで開発された茶菓子だったという言い伝えがあるとか。元々は他店で作られていましたが、そのお店の閉店を機に「柳月堂」が引き継いだそうです。

昭和33年、関門国道トンネルが開通したことを記念する博覧会が開催された際、お見えになった皇族の高松宮様がこの「めかり饅頭」をお召し上がりになったそうです。その後も度々ご所望になり、宮様が再度スペースワールドに訪れた際にも石井さんがお届けしたというエピソードも聞くことができました。

実際に食べてみると、素材を生かしたシンプルな味わいながら、癖になるおいしさでした。一口サイズであっという間になくなってしまうので、購入の際は箱入りがおすすめです。

鉄道グッズだらけのお店ができるまで

そんな「柳月堂」で40年近く店主を務める石井さん。実は元々、菓子屋を営むつもりがなかったのだそう。しかし、ご兄弟が北九州を出たことで、やむなくお店を継いだのが、石井さんの店主人生の始まりでした。

一方、「鉄道ファンになったのは物心ついた時から」と語る石井さん。家の前に路面電車が行き交う環境で育ち、駅も近い。身近には常にSL(蒸気機関車)があり、汽笛の音と生活していた石井さんにとって、鉄道に興味関心が向くのはごく普通のことだったようです。

鉄道関連のコレクションを始めたのも子どもの頃からで、周りがヒーローのおもちゃに夢中になっている中、鉄道愛を深めていったのだそう。

時が経ち、大人になっても鉄道愛が冷めることのなかった石井さんは、国鉄(現在のJR)が鉄道部品の不用品を払い下げる即売会によく赴いていたのだそう。可能な範囲で鉄道グッズを購入し、コレクションを楽しんでいたようです。

鉄道グッズを現在のように大量に収拾し始めたのは、ある即売会での出来事がきっかけでした。いつものように参加した即売会で、地元になじみの無いコレクターさんが貴重な鉄道グッズをたくさん買っていく場面を目撃し、土地になじみ深い物がその場所に残らないことや、もう見ることができなくなってしまうことに違和感を覚えたのだそうです。

それに加え、鉄道グッズを保管している博物館や資料館のような場所もないと知り、見たい物を見たいときに北九州で見られるようにしたいとの思いで本格的に収集を始めたのだとか。お店に飾るようになったのは、個人の所有物としてではなく、あくまで資料として集めているからだと言います。

貴重なグッズの数々 ここでしか見られない<レアもの>も

そんな石井さんの集めたグッズの中から、特にお気に入りのグッズを紹介してもらいました。

それが、「長崎港(ながさきみなと)行」と書かれた行先表示です。戦前に使われていたもので、右から読む方式です。当時、国際港として栄えていた長崎港。長崎港行の列車は、停泊する船に直接接続する国際列車で、非常に貴重な一枚です。

さらには、裏側に「門司行」と書かれており、それが現在の門司港駅なのだそう。現在の門司駅は元々「大里駅(だいりえき)」という名前だったのが、昭和17年の関門トンネル開通により「門司駅」に変更となり、それに伴い門司駅が門司港駅に変わりました。歴史を感じる一枚です。

集めた鉄道グッズを誰にどう託すか

これまで、3代100年以上も続くお店を守ってきた石井さん。時の流れにはあらがえず、店じまいや集めたグッズの今後についても考えていました。貴重なコレクションを多数所持する石井さんですが、これまでに譲渡や販売は行っていません。

石井さんが所持するグッズは全て自身で集めた訳ではなく、知人から後世に残してくれと言われ預かった「預かり品」も含みます。だからこそ、簡単に売ったりはできないのだとか。

誰にどう託すかは模索中。譲渡や寄贈のリクエストは受けず、ご自身で探されるそうです。

門司港の和菓子屋さんに話を聞きに行ったら、店主の<地元>と<鉄道>への愛を感じることができました。

※2024年5月29日現在の情報です

(北九州ノコト編集部)

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