棟方志功の夫婦愛「楽しめた」 作家・原田マハさんインタビュー 3月に新作長編「板上に咲く」発表

新作小説「板上に咲く」について語る原田さん=19日、青森市の県立美術館
「板上に咲く」の表紙

 青森市出身の世界的板画家・棟方志功(1903~75年)を取り上げた長編小説「板上(ばんじょう)に咲く」(幻冬舎)を3月に発表した小説家の原田マハさん(61)が19日、同市の県立美術館で東奥日報のインタビューに応じた。小学4年生の時に棟方を題材にしたテレビドラマを見て以来、50年以上にわたり棟方の魅力に取りつかれているという原田さん。本作では妻チヤの視点から棟方の創作の軌跡を描くなど新たなイメージに挑戦しており、「チヤがいたからこそ棟方作品が生まれたと感じられるような物語になっている」と語った。

 原田さんは本作執筆に当たり、棟方の孫で棟方志功研究家の石井頼子さん(67)の協力を得るなどして多くの文献や資料を読み込んだ。棟方という人間像に迫るうち、石井さんが「立っているだけで面白い人だった」と口にしたことに興味を引かれたという。

 「『立っているだけで面白い』というのは、よっぽどのこと。人間味がにじみ出てくるような人だったのではないか」と原田さん。従来の作品では史実よりもフィクションの要素が強くなるというが、棟方の場合は「どれも面白いエピソードばかり。記録がない言葉をフィクションでつないでいくという小説家の領域も含めて、私自身が存分に楽しめた」と振り返った。

 本作の副題は「Beyond Van Gogh(ゴッホを超えて)」で、棟方が憧れたゴッホの「ひまわり」が重要なモチーフとしてたびたび登場する。

 原田さんは、棟方とゴッホの関連性について「浮世絵がヨーロッパ社会に起こしたビックバンでゴッホをつくり、ゴッホから棟方というビックバンが生まれたことを世界の人たちは知らない」と力説。「浮世絵、ゴッホ、棟方の全てがリンクした『美しいリング』を世界に示すきっかけになれば」と再評価を見据えた。

 2006年に作家デビューするまで美術館関連の仕事に携わり、世界中のアートに造詣が深い原田さんにとって、青森県の印象は「力強さを感じる。非常にユニークな土地」。棟方の作品には「ねぶたのリズムや津軽だこの風に揺れる感じが表れている」とした上で、棟方が1944年に光徳寺(こうとくじ)(富山県福光)の襖(ふすま)に描いた「華厳松(けごんまつ)」について「完全に現代アート。アクションペインティングの先駆けとしてもっと再評価されて良い」との見方を示した。

 原田さんが棟方に興味を持つようになったテレビドラマは、幼い頃から大ファンだった渥美清さん主演の「おかしな夫婦」。本作も棟方とチヤの夫婦愛にあふれた物語になっており、原田さんは「朝ドラにという声はよく聞いている。映像化できたら面白いですね」と期待した。

 <はらだ・まは 1962年東京生まれ。関西学院大文学部日本文学科、早稲田大第二文学部美術史科卒。森ビル森美術館設立準備室、米ニューヨーク近代美術館勤務を経て、2006年「カフーを待ちわびて」で作家デビュー。12年「楽園のカンヴァス」で山本周五郎賞、17年「リーチ先生」で新田次郎文学賞>

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