「人権機関の創設を」国連部会、LGBTQや女性への差別・暴力を懸念。アニメ・アイドル業界にも「深刻な問題」と指摘

日本記者クラブで会見を開く国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会のピチャモン・イェオファントンさん(左)とダミロラ・オラウイさん=2023年8月

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国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会は5月29日までに、2023年の訪日調査の結果を公式サイトで報告した

報告書では、女性やLGBTQI+当事者、移民労働者、障害者などが職場で受ける差別やハラスメントに懸念を表明。被害者が適切に救済されるよう、日本政府に対し、独立した人権機関を設置することなどを勧告した。

リスク集団に対する「社会での差別、暴力の蔓延」

作業部会は2023年7月〜8月に日本を訪問した。各省庁や国会議員、企業、業界団体の代表者らと会談したほか、専門家や弁護士、市民団体などとも意見交換していた。

2024年5月1日付でまとめた報告書では、人権侵害のリスクのあるグループとして女性やLGBTQI+当事者、障害者、先住民族などを挙げ、それぞれが直面する課題に言及した。

これらのグループの課題の核心には、「労働市場における多様性と包摂性の欠如」「職場や社会全体での差別、ハラスメント、暴力の蔓延」があると指摘。さらに「民族や人種、年齢、性別、性的指向といった属性が、雇用の機会や仕事の能力に対する認識に不利にはたらくべきではないが、現実には往々にしてそうなっている」とも述べた。

2023年の世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で、日本が146カ国中125位だったことにも触れ、「男女の賃金格差が日本で根強く残っていることに懸念を表明する」とした。

一方で報告書は、2022年の女性活躍推進法の省令改正により、従業員が301人以上の企業に対して男女の賃金格差の開示を義務付けた動きを評価した。

加えて、在日コリアンやアイヌなどマイノリティグループの女性は特に、同一労働にも関わらず年収が低い・就職の機会が少ないといった課題に直面していると言及した。

作業部会は日本への訪問中、LGBTQI+当事者への差別に関しても報告を受けたという。具体例として、トランスジェンダー当事者が求職する際、性別移行前の写真を提示するよう求めたケースを「特に懸念している」とした。

さらに、インターネット上などでのLGBTQI+コミュニティを標的にしたヘイトスピーチは注目すべき問題だとした。2023年6月施行の「LGBT理解増進法」にも触れ「差別禁止の条項や、差別の明確な定義もない」と指摘した。

また、障害のある女性が特に深刻な差別を受けることが多いと言及し、「障害とジェンダーの交差性を考慮することが特に重要である」とした。先住民族に関しては「アイヌの人々は教育や職場など、さまざまな分野で依然として差別に直面している」と述べた。

アニメーターの低賃金や過重労働にも言及

報告書では、メディアやエンタメ産業の問題も取り上げ、特にアニメやアイドル業界で「深刻な問題があることを確認した」と説明している。

日本のアニメ市場が成長する一方で、アニメーターの給料の低さ、不公平な下請け関係、過重労働といった問題が生じていると指摘。

「アニメ製作委員会を含むこの分野の企業は、これらの問題に対処し、影響力を行使してアニメーターのディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を強化し、業界の潜在的な崩壊を防ぐことが急務だ」と提言した。

アイドル業界については、若年者がプロデューサーや広告主、エージェントの厳しい要求を遵守することを義務付ける契約にサインするよう強要されるなどの事例が作業部会に寄せられたと報告した。

ジャニー喜多川氏による性加害問題にも言及。旧ジャニーズ事務所から社名を変更した「SMILE-UP.」の対応について「努力を評価する」とした。

一方で、被害を申告した人への補償金の支払い状況に触れ、「適時に救済を求めてきた被害者のニーズを満たすには、依然として道のりは長い」と指摘。弁護士費用を被害者に負担させていることは「受け入れられない」とした。また、日本のメディア企業が長年にわたって性加害問題の隠蔽に関与してきたとして、メディアの責任にも言及した。

作業部会は報告書の総括で、効果のある人権救済を促すため、政府から独立した国内人権機関(国家人権機関)を迅速に設立することなどを日本政府に勧告した。

企業や業界団体に対しては、個人とコミュニティに向けられた危害に対する効果的な救済策を提供すること、 職場におけるあらゆる種類の差別、搾取、ハラスメントや暴力に対処することなどを求めた。

作業部会の報告書は、6月に国連人権理事会に提出される予定。

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