カエルのスープにサラダ…特製コース料理いかが? 100年前の滋賀、養殖の先進地

「副業」に関する歴史公文書から試食デーの資料を見つけた山口さん(大津市・県立公文書館)

 滋賀県が新たな県史の編さんを進める中、ディープな歴史が次々と掘り起こされている。1928(昭和3)年に県内各地の食堂で開かれた「食用蛙(がえる)試食デー」もその一つで、特製のウシガエル料理がコースで振る舞われ、盛況を博したという。催しの背景をひもとくと、湖国の産業史も浮かび上がる。

 フロッグスープにフロッグライス、フレッシュフロッグサラダ…。写真や絵はないが、料理名からはカエル(フロッグ)が食材としてふんだんに用いられたことがうかがわれる。

 県立公文書館(大津市)に保管されていた試食デーに関する文書には、料理人特製の洋食コース料理を1円50銭(現在の価値で1200円程度)で提供することが記されていた。試食デーには全日程で876人が参加、計266キロのウシガエルが使われた。

 試食デーを開いたのは、食用カエルの養殖業発展を目指して同年に結成された「滋賀県養蛙(ようあ)組合」。県で養殖が広がる中、カエルの味になじみのない市民にも魅力を伝える販売促進イベントとして企画したようだ。公文書館にあった文書は、組合が県に後援を求めるため提出した書類とみられ、メニュー表や食堂一覧のほか、成果報告もあった。

 一連の文書は、以前からカエル養殖の歴史に関心を持っていたという県史編さん専門職員の山口一樹さん(34)が見つけた。山口さんによると、県はカエル養殖の先進地だったという。

 食用カエルは1918(大正7)年に米国から持ち込まれた後、農商務省を通じて滋賀県と茨城県の水産試験場に試験飼育が委託された。副業としてカエル養殖を広め、農家らの所得を向上させる狙いがあったとみられる。滋賀では比較的順調に養殖が進み、投機や転売目的にカエルを買い求める人が他県から殺到する一幕もあったという。

 試食デーの5年後、養殖したカエルは米国への輸出も始まった。だが、地場産業として成熟するには至らず衰退していった。その後、日本中で自然繁殖した食用カエルは、今では特定外来生物に。県内でも初夏に野太い声を響かせている。

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 「試食デー」に関するミニ展示は、大津市の県庁新館2階県民情報室前で6月28日まで開かれている。山口さんは「滋賀は戦時中に大規模空襲を免れたこともあり、貴重な歴史公文書が多く残っている。試食デーを一つとっても、県の経済や環境の歴史が見えてくる」と話している。

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 県史編さん 滋賀県が現在の県域になってから150年を迎えたのに合わせ、県が2022年から新たな県史の編さん事業に着手した。1872(明治5)年から令和期までを主な対象期間とし、多様な分野ごとに歴史の変遷をまとめる。県史はこれまでおおむね50年ごとに2度編さんされている。

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