夜の松山城を飛び越えた米軍機 旋回や低空飛行経て岩国基地へ…その1週間前の深夜には「戦闘機のような轟音」

「先ほど、松山市内の上空で、何やら聞き慣れない飛行機の音が聞こえたので、フライトレーダー(=飛行機追跡できるアプリ)を確認している。そちらでも見られるか」

あいテレビのベテランカメラマンから、記者のもとに連絡が入ったのは、5月26日の夜9時ごろのことだった。

画面に表示された見慣れない機体

フライトレーダー(正式名称:flightradar24)というアプリ。
航空機が、自らの位置を確認する目的で、GPSなどと合わせて使用する「ADS–B(Automatic Dependent Surveillance Broadcast・放送型自動従属監視)」と呼ばれる電波を受信することで、現在飛行している飛行機の軌跡や速度、さらには高度などの詳細情報を、正確に、リアルタイムで地図上に表示させる機能を持つ。
そこに表示される多くは旅客機などの民間機だ。

だが、この時は違った。

ロッキードマーチン社製のKC-130Jハーキュリーズ
元々は中型輸送機として開発された機体だが、この機種は空中給油機型のものだ。所属は「United States - Navy」、つまり米海軍の軍用機だった。

飛び立った空港の欄には、嘉手納基地を意味する「DNA」の文字
そして着陸予定の空港欄は「該当なし(Not Applicable)」となっている。

午後6時26分に、沖縄県の嘉手納基地を飛び立ったKC-130J空中給油機は、東シナ海を北上。鹿児島県の徳之島の西側海上で一度旋回した後、奄美大島の北側海上で、くねくねと進路を変えながら、今度は3度旋回している。

一般的に空中給油は、大きく旋回しながら行われるそうなので、あるいはその訓練だったのだろうか。

その後、屋久島と種子島の上空を通過したKC-130J空中給油機は、太平洋を進み、高知県の土佐清水市周辺から四国へ。三原村の上空をまっすぐに北上し、愛媛県内へ入る

愛媛県内を北上する米軍機

松野町の辺りまで来ると、進路を少し東寄りに変え、西予市城川町周辺へ向かい、再び進路を変更。国道197号に沿うようなルートで大洲市肱川町付近を抜け、内子町上空を通過。海岸線沿いに出た。

嘉手納基地を飛び立ち2時間余り、米海軍のKC-130J空中給油機は、伊予市内上空を突っ切り、そのまま松山市内中心部へやって来た。

松山市中心部を抜けて瀬戸内海へ

「坊っちゃんスタジアム」を飛び越えると、松山市駅、そして松山城の真上を通過する形で、まっすぐに飛行を続けた後、松山市大浦の辺りから瀬戸内海に抜けて行った。

米海軍のKC-130J空中給油機は、このあと広島県から島根県を抜けると、鳥取県日南町の菅沢ダム周辺の上空を複数回周回。

中国地方の山中を、高度1000メートル程度の低空で飛行するなどした後、午後10時ごろ、複数回の「タッチアンドゴー訓練」を行いながら、山口県の岩国基地に着陸した。

さかのぼることおよそ1週間

18日から20日ごろにかけて、松山市内上空を低空で飛行する戦闘機と思われる機体が、多数目撃されていて、SNSなどにも同様の書き込みが相次いだ。

戦闘機? 1週間前の夜空に響いた大きな音によみがえった記憶

特に、19日の深夜、日も変わる時間帯には、ジェット機によると思われる爆音が複数回響き渡り、広い範囲で多くの人がそれを聞いていた。

当時、自宅に居た記者もこの音を聞いていたが、雷鳴のように夜空を震わせるような、かなり大きな音だった。

余談だが、記者は過去に間近で戦闘機を取材する機会があった。
10メートルほど離れていただろうか、目の前に、F-4ファントム戦闘機とF-15イーグル戦闘機が2機ずつ、合わせて4機が、格納庫の前のエプロンに並ぶ。

エンジンが起動されると、地面が震えた。回転するタービンの発する高い金属音と、吹き出す排気による重い低音。そのエンジン音は、旅客機などとは全く別物だった。身体に振動が伝わり、防音用の耳当てを装着していても、長時間は耐えられないような、まさに轟音が響き渡った。

真夜中の松山市内で、唐突に響き渡った大きな音は、そんな経験を思い出させるものだった。

愛媛県によると、この夜、松山市内だけで、19件の「米軍機目撃等情報」が寄せられている。

その内容は「大きな轟音がした、何か分からず不安」「戦闘機のような飛行機が通過した音が聞こえた」といったもので、松山市や松山空港事務所、陸上自衛隊松山駐屯地などに通報が寄せられたという。

「3機目撃」が9件

詳細については、県は現在、中国四国防衛局に「照会中」だが、この時寄せられた目撃情報のうち、半数近い9件は「(何らかの機体を)3機目撃した」というものだった。

中国四国防衛局によると、時を同じくして、5月17日から22日までの6日間、九州沖で、岩国基地のF/A-18 E/Fスーパーホーネット戦闘機などが、空母着艦訓練を行っていた。

【「米軍空母艦載機部隊 九州沖での着艦訓練“CQ”開始か 米軍岩国基地・岩国市に滑走路時間外運用を連絡」(テレビ山口・2024年5月17日付け記事)】

山口県岩国市によると、この訓練に参加していたのは、F/A-18 E/Fスーパーホーネット戦闘機のほか、EA-18Gグラウラー電子戦機やE-2Dホークアイ早期警戒機、C-2Aグレイハウンド輸送機などの艦載機と、ヘリコプター。

19日午前0時51分に着陸した機体

訓練期間中の、特に18日から20日の3日間には、本来は岩国基地の運用時間外となる午後11時から午前6時半の時間帯にも、合わせて16回、これらの飛行機が離着陸するのが確認されたという。

このうち、最も遅い時間に滑走路の使用があったのは、19日の午前0時51分に行われた着陸で、機種はF/A-18 E/Fスーパーホーネット戦闘機もしくはEA-18Gグラウラー電子戦機だったという。いずれも機種名は異なるものの、同じエンジンを搭載した、いわば同型機だ。

松山市内で轟音が確認された日時と辻褄が合うように感じた。

深夜の上空を飛行していたのは、米軍機だったのだろうか。
特に18日と19日に絞り込み、中国四国防衛局に問い合わせた。その結果、得られた回答は次のようなものだった。

アメリカ側から情報を得ていません

「個々の飛行訓練の内容等について、アメリカ側から情報を得られた際には、関係する公共団体へ提供しているところですが、お尋ねの、今月18日および19日における、愛媛県上空での飛行訓練について、アメリカ側から情報を得ていません

「なお、空母着艦訓練実施についても、アメリカ軍の実施することなので、その内容についてお答えすることは困難です」

愛媛県によると、低空飛行する米軍機とみられる飛行機の目撃情報は、2020年度には過去最多の346件となっている。その後は減少傾向にあるものの、2023年度には、再び増加に転じている。

26日の夜、松山城上空を飛び越えていったKC-130J空中給油機。2022年12月21日には、同型機が伊方原発の上空を旋回する様子が目撃されている。

愛媛県の中村時広知事は今年3月、県民が不安を抱くような飛行の中止などを米軍に対して申し入れるよう、国に要請している。

ところで、県が国に対して行う「照会」とは、どのようなものなのだろう。その内容を担当者に尋ねてみる。

「米軍機?」「自衛隊機ではない」

「寄せられた目撃情報に基づいて、米軍機かどうかの確認を求めるのが『照会』になる。それに対する回答は『自衛隊機ではない』といったものになる」

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