まさかオーロラ? あの“赤い光”は一体? 夜空に写った淡い光…1週間越しの調査と検証の結果

5月11日、北日本を中心に広い範囲で観測された低緯度オーロラ。

鮮やかなピンク色であったり、深い赤紫であったり、観測場所によってその見え方は様々だったが、幻想的な光を放つ自然現象に、人々は魅了され、SNSなどは大いに盛り上がった。

幼少期、宇宙飛行士になることを夢見ていた記者。40歳を過ぎた今は愛媛のテレビ局で勤務している訳だが、とにかく星空を見上げることは今も嫌いではないので、話題に乗り遅れてなるものかと、一眼レフを持って深夜に家を飛び出した。

近くでは、兵庫県の日本海側で観測されたということだから、四国で見える可能性も無くはないはずと考えた。

念のため、あいテレビの過去の原稿や映像を調べることのできるアーカイブシステムで「オーロラ」を検索してみる。

ヒットしたのは、1996年に撮影された東京ドームの「オーロラビジョン」や、「オーロラのように輝く」2002年のイルミネーションくらいのもので、少なくともこの30年あまり、四国の地でオーロラは観測されていないことが確認できた(あいテレビが取材していなかっただけ…という可能性は無いだろうと思うので…)。

もし撮影できたのならば、これは実に快挙ということになる。

ただ、あいにくこの夜、松山市内の上空には厚い雲が立ち込めていて、天体観測をするには最悪な条件だった。

せめて、なるべく空を広く見渡すことのできる場所として選んだ海岸沿いから、万が一の可能性にかけ、まさに「ダメ元」で、カメラを北に向けてシャッターを切った。

街明かり?赤っぽい光が…

「…なんか赤っぽい?」

瀬戸内海を挟んだ本州の街明かりだろうか、空に広がった雲が白っぽく光っている。

その内の地表付近に、なんとなく赤みを帯びた光が写り込んでいた。

ちなみにこの「赤みを帯びた光」は、肉眼では分からなかった。ISO感度を上げたカメラで、30秒間シャッターを開いて撮影した結果、確認できたものだ。

「いやいや、流石にこれは街明かりだろう」

念のため、カメラの向きを、今度は広島市の街明かりが見える方向に向け、同じ条件で撮影してみる。

流石は政令指定都市、光が多いのだろう、真っ白な雲が写り込んだ。しかしその中に「赤みを帯びた光」は見えない。

「…待てよ、すると……。ひょっとすると?」

「オーロラ」という単語を口にするのははばかれる、実に微妙な赤っぽい光。それでもカメラの液晶画面に食い入ってしまう。本当になんだろうこの赤い色味は。

今度は「赤みを帯びた光」が見えた夜空に目を凝らす。暗さに目が慣れてくる。しかし肉眼では、やはり何も見えない。再びカメラの液晶画面に目を戻す。いや、まぶしい。やはり赤っぽい光は写り込んでいる。

とはいえ、深夜の国道沿いに止めた車の中であれこれ考えたところで、何か結論が出るはずもない。週明けになれば、観測情報が集約されているはずだから、それを待とう。帰路についた。ちなみに自宅の近くまで来たタイミングで雨に降られた。

「赤みを帯びた光」天文台に聞いてみると…

週明け。

最初に電話をかけたのは、「赤みを帯びた光」が見えた方角に位置するはずの広島大学宇宙科学センター附属・東広島天文台だ。

「そもそも天文台の緯度が低かったことと、当日の天気が良くなかったことから、特に観測はしていないです」

あいテレビの気象予報士に頼んで出してもらった12日午前1時現在の雲の様子。

オーロラの観測報告の相次いだ道北や東北、東海北陸地方は確かに雲がかかっていない。ただ、同じく観測されたという兵庫の日本海側にも雲がかかっているように見える。

気を取り直し、今度は愛媛県のお隣、香川県にある「まんのう天文台」に問い合わせてみる。

「当日は雨だったので観測自体していなかったです」
「ただ、もし天気が良ければ、四国でも、かすかにでも見えたのでは」

その言葉に、少し自信を持った記者は、松山市内から車を走らせれば1時間くらいで行くことのできる、久万高原天体観測館・天文台に電話をかける。

「緯度が低いので、見える可能性はかなり低いと思うが、ゼロでもないです」
「当日、雲がなければ、見えていた可能性はありますね」
「雲のすき間、あるいは下の方から見える可能性も、ゼロではないです」

ゼロではないものの、限りなくゼロに近そうな雰囲気。けどやはりゼロではないのだ。

こうなると、いよいよ写真に写り込んだ「赤みを帯びた光」の正体が気になる。何とか確証は得られないものだろうか。食い下がり、天文台の職員にオーロラの見分け方を聞いてみる。

「例えばですけども、光の中に、少しでも緑色が混じっていたならば、オーロラの可能性が高いと思いますよ。これは光の波長の話になるんですが、とにかく星の光に緑色というのはありませんし」

果たして“緑色”は写り込んでいるのか…

記者は、あいテレビでCG制作などを手掛けるセクションに、何とは言わず写真を持ち込み、写り込んだ光の色の「解析」を依頼した。

「この光って赤っぽいと思うんですが、そんなことありませんか?あと、この中に緑っぽい光も写り込んでいたりしないものですかね?」
「なんですかこの写真、ニュースに使うんですか?」
「いやまぁ、現時点でそういう訳では無いんですがね」

煮え切らない態度の記者からのオーダーにも関わらず、CGの担当者は、日常の業務を中断してまで作業を引き受けてくれた。

画像加工ソフトなどで「解析」をしてもらった結果は次のようなものだった。

1.特に写真左下には赤色ははっきりと出ていた
2.写真の全体には灰色と赤色が入っているようだ
3.しかし緑色は確認できず、代わりに黄土色や黄色が見受けられた

やはりオーロラでは無かったのだろうか…。これを最後にすると決め、プラネタリウムを持つ愛媛県総合科学博物館に問い合わせる。

比較検証の結果は…

「当日は、天気が悪く観測はしていなかった」
「愛媛の場合、オーロラは計算上、(地平線から)1度くらいの位置に見えるはずだった」
「なので観測する場合には、山頂などから高さを稼いで、見える範囲を広げると良い」

その上で、くだんの写真に写り込んだ「赤みを帯びた光」の正体については、人工光との見極めが難しいことから、別の日に、同じ場所から同じ条件で撮影をして、比較検証を行うことを勧められた。

撮影から1週間後となる19日午前1時ごろ。

満を持して、記者は再び同じ場所にカメラを立てた。ドライブと聞き助手席に同行していた妻は、大いにいぶかしんでいた。

この日も星の見えない天気で、やはり1週間前と同じように、空一面に雲が映り込んだ。そして同様の「赤い光」も見事に写り込んだ。

その正体は結局のところ、対岸の街明かりだったようだ。大いに脱力した。社内で「オーロラ」という単語を言い回らなかったことが、せめてもの救いだった。

「まぁつまり、観測できなかったということが確認できた訳ね」

カメラの液晶モニターをのぞき込んだ妻は、あくびをかみ殺しながらつぶやいた。

幻だった「オーロラ」また見える可能性はある…?

ただ、今回の低緯度オーロラ、とにかく広い範囲で観測されたようで、県総合科学博物館によると、南はなんとハワイでも見ることができたのだとか。そんな天体現象を見せつけた太陽フレア、活発な状態はまだしばらく続く見込みとのこと。

「今回の一発では終わらず、また見える可能性はあり得ると思いますよ」
「近場でも見えそうならば、私もカメラを持って見に行くつもりです」

長く執拗な電話に付き合ってくれた学芸員も、まんざらでもなく、結構期待している様子だった。そして記者を励ますように言葉を続けた。

「またカメラを持って出掛けてください、カメラの台数が多い方が観測できる可能性は高くなるので」

例え撮影できなくても、オーロラが見えるかも?とわくわくできるなんて素敵な事じゃありませんか、負け惜しみとかではなくて。

忙しい日常を一時でも忘れて、皆さんも次の機会には夜空に目を向けてみませんか。その際、念のため、できればカメラを持って出掛けましょう。(情報提供はいつでもお待ちしています)

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