【主張】同じ轍踏まぬ育成就労に

在留資格「育成就労」を新設する法案が衆議院を通過した。法案では公布から3年以内に施行されるとされており、成立すれば制度開始から三十有余年を経て、技能実習制度が衣替えを果たすことになる。

衆議院の審議を経て法案には一部修正が加わり、附則のなかに「政府の措置」4項目、永住資格取消しに当たっての配慮に関する項目が盛り込まれた。前者においては、育成就労外国人の就労が大都市圏などに過度に集中しないよう、必要な措置を講ずるなどとしている。新たに就労1~2年後の転籍が解禁される点も踏まえ、労働力確保の観点からそうした懸念の払拭が期待されるのは良く分かる。

技能実習生に関してはこの間、毎年数千人単位の失踪者数を記録してきた。たとえば令和4年の9006人という数字は、同じ年の技能実習による新規入国者数=18万人弱の5%、在留者数=33万人弱(同年6月末現在)の2.7%に相当する。育成就労制度においてはこうした傾向を反転させるべく、労働力確保の機能だけでなく、そのための労働条件の改善も強く望まれよう。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、令和元年分から在留資格7区分の賃金水準を調べている。最新の5年度調査のフルタイム勤務者の集計では、技能実習の所定内給与額は平均18.2万円(平均年齢26.2歳)、特定技能は19.8万円(同28.9歳)だった。新規学卒者の学歴別賃金と照らし合わせると、高校卒18.7万円と大差ない。

調査結果が実態を表しているとすれば、失踪理由に関して「時給の高い都市部に去っていった」などといわれがちなのも納得できる。それぞれの月間所定内労働時間数で除した時間単価は、最低賃金レベルの技能実習1056円、特定技能1151円に過ぎない。特定技能に移行し、末永く働いてもらうことを期待するなら、今後、自ずと習熟に応じた賃金相場が形成されていくはずである。海外から揶揄されることなく、労働力確保ソースとして維持していくためには、“人への投資”が欠かせない。

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