享年51歳、激しい頭痛を訴え妻死去。夫、死亡保険金1,000万円をもらえず「ローンが76歳までなのに」とカネの心配だけ…人でなしが「年金事務所」でトドメを刺されたワケ【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

内閣府の「男女共同参画白書 令和4年版」によると、専業主婦のいる世帯は減少し続けていますが、共働き世帯は増えています。共働きであれば、2階建ての年金を2人それぞれが長年加入しているとあって、老後は安泰、といったことがイメージが強いでしょう。ところが、共働き夫婦ならではの注意点もあるのです。今回は、共働きであり、さらに近年増加中の「晩婚夫婦」の老後を見据えたマネープランにおける注意点について、Tさんの事例からオフィスツクル代表の内田英子氏が解説します。

ジェットコースターのように進んだ晩婚夫婦の結婚生活

Tさんは54歳、大手企業に勤務する会社員です。妻のNさんは3歳年下で3年前に結婚しました。Tさんは、学生時代は勉学に打ち込み、就職してからは仕事に明け暮れる日々で、交際する女性は何人かいたものの、長くは続かずにいました。

そんなTさんは、50歳を過ぎてからやっとこの人だ!と思える人と出会えたのです。Nさんと出会うためにこれまでずっと独り身でいたのだとさえ感じました。Tさんは出会ってすぐに結婚を決断し、人生のパートナーができたことをとてもうれしく思いました。妻を安心させてあげたい、と結婚するやいなや住宅ローンを組み、マイホームを取得しました。

夫婦共働きで、経済的にはゆとりがありました。話題のカフェがあれば2人で尋ね、2週間に1度は遠出してドライブを楽しむなど、充実した生活を送っていました。

Tさんは青春時代を取り戻すかのようにNさんと楽しい日々を過ごしましたが、何事も少し急ぎ過ぎたのか……。結婚から半年後には、TさんのNさんへの思いは薄れつつありました。

そして1年が経ったころには、ただの同居人とでもいうような関係性となり……。日常の会話もそこそこに、以前は一緒にご飯を作ることが楽しかったことが夢だったかように、お互いのことはそれぞれでやる、というような日々を送るようになりました。

突然の妻の死亡

ところが、Tさんが54歳のときに状況は大きく変わります。

Nさんが突然激しい頭の痛みを訴え、救急車を呼んだものの間に合わず、帰らぬ人となってしまったのです。残されたTさんは涙も出なかったといいます。周囲の助けを借りながら、さまざまな手続きを進め、生命保険の手続きに入りました。

Nさんは結婚前、両親と暮らしていたこともあり、結婚前から1,000万円の死亡保険に加入していました。Tさんは、死亡保険金は自分が受取れるのだろうと思っていましたが、受取人は妻の母親となっており、Tさんは受け取ることができませんでした。

内心あてにしていた死亡保険金が受け取れないことを知ったTさんは「まだ住宅ローンが76歳まであるのに……」と言葉を失いました。

そういえば、遺族年金があるんじゃないか。Tさんは1年前に参加した筆者のライフプランセミナーで遺族年金について話していたのを思い出しました。そこで、Tさんは年金事務所に行きましたが、耳にしたのは「受給資格がありません」との言葉だったのです。

2人なら将来の年金は月33万円のはずが…

遺族年金を受けられないことを知って、Tさんが思い出したのは、Nさんの生前一緒に確認した年金受給額です。もしお2人で長生きをされていれば、Tさんは約20万円、Nさんは約月13万円の年金を受け取れる見込みで、夫婦二人では年金が約33万円との試算だったそうです。

納得できないTさんは妻自身の年金があったはず、とさらに年金事務所で詳しく尋ねました。遺族年金には遺族にも要件があり、遺族が妻だった場合は55歳未満でも遺族厚生年金が受けられるが、夫の場合は年齢要件があるとのことでした。

もし反対の状況であれば、Nさんには65歳まで月約12万円遺族厚生年金が支給されただろうということです。また、もしTさんが55歳以上であっても遺族厚生年金の支給は60歳以降となり、65歳以降の遺族厚生年金については加入者本人の老齢厚生年金が優先されるため、受け取れないことが見込まれるとのことでした。

遺族年金の複雑さにTさんははがゆく、不条理を感じずにはいられませんでした。

遺族給付を受け取れる遺族の要件

遺族年金は、公的年金に加入している方が万が一の際、遺族を対象として支給されるものですが、支給には死亡した方だけではなく、遺族にも一定の要件があります。遺族の方に関する要件は以下のとおりです。

(遺族基礎年金の場合)

1.子のある配偶者(内縁を含む)

2.子

(遺族厚生年金の場合)

亡くなった方に生計を維持されていた以下の遺族

1.子のある配偶者

2.子

3.子のない配偶者

4.父母

5.孫

6.祖父母

遺族厚生年金の受給が優先されるのは子とともに配偶者ですが、配偶者が夫である場合には55歳以上であるという年齢要件があり(父母・祖父母についても同様に55歳以上)、かつ支給は60歳からになります(遺族基礎年金をあわせて受給できる場合であれば、55歳から60歳までのあいだであっても遺族厚生年金を受給可能です)。

また、生計維持要件もあり、将来にわたって年収が850万円以上見込まれる方も支給の対象外となります。Tさんの場合にあてはめると、Nさんは厚生年金保険に加入しており、死亡した方に関する要件は満たしていましたが、お子様はいらっしゃらなかったため、Tさんに遺族基礎年金の支給はありませんでした。

一方TさんはNさんの配偶者であり、遺族厚生年金の支給の可能性が残されますが、54歳であり、わずか1年ですが年齢要件を満たしていないため、遺族厚生年金を受けられない、ということとなったのでした。

晩婚共働き夫婦は遺族年金を事前に確認

夫婦共働きの晩婚夫婦の場合、家計にゆとりがあるという方は多いですが、万が一のときにはTさんのケースのように遺族年金の支給がなかったり、老後の遺族厚生年金額が少なくなるなど、公的年金からの保障は薄くなる可能性があります。

Tさんのケースでは、遺族基礎年金・遺族厚生年金ともに受け取れず、世帯年収とともに老後の年金の受給見込額も3割減となりました。幸いTさんの自宅は立地がよく、頭金を出して中古住宅を取得していたことから、自宅の売却も選択肢とできるとのことでしたが、住宅ローンの残高が売却価格を上回れば売却は困難となることが見込まれます。ご家族がいらっしゃる場合は引っ越しが難しいケースもあるでしょう。

晩婚共働き夫婦の場合、Tさんのように大きなライフイベントを定年前後に迎えるというケースが見受けられます。万が一にも留意し、公的年金の老後の受給額とともに遺族年金額についても事前に確認しておきましょう。

内田 英子
FPオフィスツクル
代表

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