事故や病気で失った体の悩み軽減 人工乳房や義眼…金沢にサロン 広がるアピアランスケア

人工乳房などのエピテーゼを紹介するスタッフ=金沢市内

  ●歯科技工の技術生かす、金大病院で勉強会

 がん治療などに伴う外見変化を補い患者の精神的苦痛を軽減する「アピアランスケア」が石川県内で広がっている。金沢市には事故や病気で失われた体の一部をカバーする「エピテーゼ」の専門サロンが開所し、乳がん患者向け人工乳房を中心にシリコン製の耳や義眼など幅広く手掛ける。金大附属病院でも職員向けの勉強会を開いており、外見に悩む人たちが日常生活を快適に過ごせるよう心身に寄り添った支援を目指す。

 金沢市野町2丁目に4月に開所したのはエピテーゼサロン「綴(つづる)」。にし茶屋街近くの町家風の建物で、津幡町で歯科技工所を営む杉本雄二さん(64)が歯科技工物の製造技術をエピテーゼに生かそうと3年ほど前から準備を進めてきた。女性スタッフ2人が常駐して相談に応じ、試着や採寸も行う。

 金大附属病院乳腺外科の寺川裕史医師によると、アピアランスケアの重要性は近年高まり、がん治療に欠かせなくなっている。実際、外見の変化により対人関係や社会生活に支障が出たという患者が少なくないという。

 乳がん治療によって乳房を切除した場合、選択肢の一つに再建手術があるが、費用面や合併症などの理由で手術を受けられない人もいる。寺川医師は「補正下着を使えば着衣の状態で目立たないようにできるが、精神的な部分は補いきれない」と指摘。その点、エピテーゼは本物そっくりに再現し、人目を気にせず風呂や温泉に入ることもできる。

 エピテーゼサロン「綴」が手掛ける人工乳房は既製品のほか、フルオーダーにも対応する。寺川医師から紹介を受けたモニターに着用感などをヒアリングしながら改善を重ねてきた。

 サロンでは生まれつき耳の扇形の部分が発達しない「小耳症」の患者や、けがで指を失った人など、さまざまなケースに対応する。子どもの場合は成長とともに耳などの形状が変わることから、エピテーゼを低額で何度でも作り直すことができる制度も用意した。

 杉本さんは、エピテーゼ専門の事業所は北陸では珍しいとし、「必要としている人が想像以上にいる。気軽に立ち寄って、実際に触れて確かめてもらいたい」と話した。

  ★アピアランスケア 治療による外見変化を補完するため医療用ウィッグや人工乳房、皮膚の色を整える化粧品などを使うほか、服装を工夫するアドバイス、外見を前向きに捉えられるような心理的サポートをし、患者が自分らしく日常を過ごせることを目指す。がん治療の分野で注目が高まっているが、他の病気や手術による傷痕、生まれつきのあざの対応でも取り入れられている。

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