野生霊長類の「死亡個体との交尾行動」 京都大学が初めて記録

京都大学野生動物研究センターの研究グループは、野生の霊長類としては初めてとなる死亡個体との交尾行動を、タイ王国に生息するベニガオザルで観察した。

動物の死生観を調べる霊長類死生学では、「霊長類は死を理解しているのか(「死」の概念があるのか)」が目下の課題だ。しかし、生きている霊長類個体と死体との接触を記録した観察事例は、偶然によることが多いため非常に珍しく、学術的にも貴重な知見となる。

研究グループは、2015年にタイ王国で開始した野生ベニガオザルの長期調査プロジェクトで、サルの死体発見時に可能な限り死亡個体に対する他個体の反応を記録し、データを蓄積してきた。

2023年1月30日、観察中に野生ベニガオザルのオトナのメスの死体を偶然に発見し、訪れたオトナのオスの交尾行動の記録に成功した。その後3日間、計3頭のオスによる死亡したメス個体との交尾行動4事例が記録された。

オスによる死亡個体との交尾の理由は不明だが、交尾が多い乾季に交尾機会が少ない社会的順位の低いオスたちが、通常の交尾行動手順をとったことや、死後3日目の腐敗が進んだ死亡個体への交尾行動などから、ベニガオザルには「無抵抗で横たわっているという状況」が「死んでいる」状態と結びつかない、つまり死の概念がないのではないか、という考察に至った。

他にも検討すべき点があることから、今回の観察事例だけでベニガオザルには「死の概念」がないと断言はできないという。今後、過去の事例から死亡個体との接触時の行動の分析を進め、調査中に死体を発見・遭遇した場合には行動観察を継続し、「死」に対する反応の記録を蓄積したいとしている。

論文情報:

【Scientific Reports】Necrophilic behaviour in wild stump-tailed macaques (Macaca arctoides)

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