「言葉をちゃんと届けたい」新潟発のロックバンド・終活クラブの楽曲へのこだわり

2020年8月に「音楽を終わらせるための音楽」を始めるため、少年あああああ(Vo/Gt)を中心に結成された5人組ロックバンド・終活クラブ。新潟を拠点に活動しメジャーデビューも決定しているが、顔を出していない彼らの全貌は、いまだ掴むことができない。

楽曲を聴いて気になったニュースクランチ編集部が、彼らにコンタクトを取ってインタビューを実施。終活クラブという不思議なバンド名に込められた音楽への熱意。キャッチーなメロディーと少しひねくれた歌詞の中毒性。そんな彼らの世界に足を踏み入れてみよう。

▲終活クラブ 少年あああああ(Vo/Gt)【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

音楽をやらずに死ねないと思って配信を始めた

今回のインタビューでは終活クラブのフロントマン・少年あああああにインタビュー。彼はバンド結成前、社会人として働いていたらしい。

「何か大きなきっかけがあったわけではないんですが、社会人として働いているときに“このままでいいんだろうか……”と思い、そう思った日に仕事を辞めました。仕事を辞めても何をしていいかわからなかったので、とりあえず配信を始めました。音楽をやらずに死んだら、絶対に後悔すると思ったからです」

音楽の配信を始めた当時から顔は隠して活動していた。

「顔を隠すのが流行っていたというのもありますが、自分はコンプレックスの塊なので、できるだけ隠せるものは隠そうと。顔を隠していれば少年と言ってもバレないし、〈あああああ〉という名前も適当につけました(笑)」

適当につけたと本人は語るが、それすらも彼の世界観にマッチし、もっと知りたいと思えるフックになっているように感じる。そしてバンド結成のきっかけが訪れる。

「新潟のライブハウスが、コロナの影響でバー営業をしていた時期があって、僕もよく遊びに行っていたんです。そこで配信を聴いてもらったら “絶対にバンド組んだほうがいい”と言われて。それからメンバーを集めることにしました。

メンバーは “いつか一緒にコピーバンドでもやろうぜ”と話していた友達を中心に集めて、終活クラブが誕生した流れです。音楽をやり切れていない感が強くて、最初はただただ仲間と一緒に音楽がやりたい、という気持ちが強かったです」

“音楽をやらなかったら後悔する”。この想いが一風変わったバンド名誕生のきっかけとなる。

「社会人を辞めた理由ともつながっているんですけど、バンド名は“このまま音楽をやらずに人生が終わったら絶対に後悔する”という想いからきています。その当時、終活という言葉が流行っていたんですが、死ぬことをすごくポジティブに捉えているなと。自分も後悔しないように、音楽をやり切るという意味で、終活クラブというバンド名になりました。

ただ最初、終活ってバンドにしたいとメンバーに伝えたら、重いからイヤだと言われてしまって(笑)。“終活”か“日本語大好きクラブ”のどちらかがいい? という話になって、最終的に両方をくっつけた終活クラブになりました」

一見すると不穏な名前に感じるかもしれないが、バンド名には少年あああああの音楽への想いが込められていた。

「人間はいつか絶対に死にますよね。その“いつかの死”に向かって、自分が後悔しないように終活をするのはすごく大事。僕にとっては音楽をやることが終活なんです」

▲僕にとっては音楽をやることが終活なんです

終活クラブのテーマは“やさしいおばけ”

名前もさることながら、楽曲も一風変わった内容が多い。オリジナルキャラクターで、バンドのなかでは神様でもある<やさしいおばけ>の誕生についても明かしてくれた。

「おばけに取り憑かれるなら、“やさしいおばけがいいな”とずっと思っていて。自分が死んだあとも、やさしいおばけになりたいと思っていたんです。やさしいおばけは、終活クラブの神様になっていて、メンバーがそれをマネして布をかぶっているのが、メインビジュアルのイラストになっているんです。これは自分の思想のような部分で、終活クラブのコンセプトになっています」

楽曲制作に関しても“後悔したくない”という、少年あああああの想いが強く表れている。

「自分がやってきた音楽をメンバーも知っていたので、“終活クラブ”の方向性にも納得してくれました。メロディーにはそこまでこだわりはなくて、歌詞が伝わるメロディーになればいいな、というくらい。歌詞については、読み物として楽しいものにしたいと常に思っています。

後悔したくない、という気持ちはやっぱり強くて。“もっとこういう曲を書いておけばよかった”と後悔するのがイヤなんです。だから、楽曲はいっぱい作りたい。その気持ちも楽曲にできればいいなと思っています。僕は絶対に主人公がいいので、それも一つの物語として」

そして3月にリリースした2ndアルバム『終活のてびき』は、楽曲制作のうえで変化している部分もあるという。

「性格は根暗だし、音楽は趣味でやっていたので、楽曲に関しての矢印はずっと自分に向いていたんです。1stアルバム『終活のススメ』についてもそうでした。ただ、アルバムの最後に収録されているキラーチューンは、初めてお客さんに向けた楽曲になったんです。

1stアルバムをリリースするまでにライブをしたり、ファンの方と関わっていくうちに感じた、“この人たちのために歌いたい”という気持ちを表現した楽曲なんです。それだけに2ndアルバムについては、相手がいることを意識して作りましたし、レコーディングもその先に聴いてくれる人がいること意識して収録しました。言葉をちゃんと届けたいと強く思うようになりましたね」

メジャーデビューしても感覚が変わることはない

2024年4月にVAPに所属。メジャーデビューすることが決まった終活クラブ。その背景には、終活クラブを担当しているVAPの田中宏太郎氏の存在が大きかったようだ。

「最初はメジャーデビューしようとは考えていませんでした。友達と組んだバンドですから、いま思えばよくデビューできたなって(笑)。結成当時から絶対にメジャーデビューしたいという思いもなかったですね。

そんな僕らがメジャーデビューできたのは、VAPの田中さんの存在が大きかったです。田中さんは信頼できるし、そんな田中さんからメジャーデビューのお話をいただいたときは、シンプルにチャンスだなって。夢って見ていれば叶うんだと感じました」

4月4日のワンマンライブでは、田中氏がオープニングスピーチをしていた。終活クラブと田中氏の信頼関係が、いかに強いのかが垣間見れた。そして、メジャーファーストEP『終活新布教盤』を5月22日に配信リリース。リード曲『しょうもないなあ』は先行配信された。

「リード曲の『しょうもないなあ』を作っていたときは、すごく心がモヤモヤしていたんです。全部が“しょうもないなあ”と思っていたんですけど、こういった気持ちがないと始まらないこともあるんだなって。

この楽曲はメジャー1発目ですけど、それにしてはゴチャついた歌詞だと思うんです。今までの終活クラブを詰め込んだ内容になってるんですけど、一番最後の<じゃ、始めますか>で、なんとなく全て大丈夫に感じられる楽曲にしたいなと思いました」

たしかに『しょうもないなあ』の歌詞は、文量が他の楽曲と比べても多く、具体的な体験談も盛り込まれている。

「快活CLUBによく行くんですけど、ダーツとかをはしゃぎながらやっている若者を見ると、胸がすごく苦しくなるんです(笑)。<テキーラ飲んで コール煽って ダーツとかしてみたかった?>は、そんな思いから書いた歌詞ですね。

今回はいろんな気持ちが入っているんですけど、“この部分は良いテーマだから後回しにしよう”というのができないんです。そのとき思ったことは、そのときに歌詞にしたいので。結果的にかなりギュウギュウな楽曲になりました」

メジャーデビューをしたとして、終活クラブらしさが失われることはない。むしろ、より濃度が増しているように感じる。

「『しょうもないなあ』を聴いたファンの方からは、“新しいけど、どう聴いても終活クラブだね”と言っていただけて。メジャーに行って変わってしまうんじゃないか……そう思っていたファンの方には、安心してもらえたのかな。バンド名も終活クラブのままデビューさせてもらえたので(笑)。

メジャーデビューとなっても心持ちは変わらないですね。むしろ、僕が曲を書く理由が増えたくらいかな。もちろん、うれしいこともあって、僕たちの曲を届けられる道が増えたと感じています。終活クラブの息抜きとして曲を書くのが趣味、というくらいだったんですが、もっとたくさん曲を書きたいなと思っています。

きっとメジャーデビューして時間が経っても、感覚が変わることはないと思います。バイトもするだろうし(笑)」

ライブではお客さんの目を見ながら歌いたい

そして、念願となる全国ツアーも開始される。今までライブをしたことがない場所へも、終活クラブが訪れることになる。

「いろいろ回らせていただけるので、とにかくうれしいですね。人が集まらなかったときのことを考えて、回る場所を限定することって、どうしてもあると思うんです。

その観点から、単純に、いろんなところでファンの方と会えるのはもちろん、自分たちが全国でライブができるという自信につながっているのもうれしい。僕自身も、好きなアーティストが地元に来てくれるってうれしかったですし。今までライブをしたことがない場所も多いので、楽しみに待っていてほしいです」

▲全国ツアーを楽しみに待っていてほしいです

5月30日、東京・下北沢でスタートする全国ツアー。3か月にもおよぶ全国ツアーの最終日は地元・新潟で開催される。

「メンバーそれぞれのライブへの想いはあると思うんですけど、僕個人としては、お客さんの目をめっちゃ見るようにしています。お客さんに語りかけるように歌うんですけど、めっちゃ身振り手振りしています。

たぶん、フェスとかライブ会場が大きくなってしまったら難しいかもしれないですけど、目の前のお客さんに語りかけるくらい、目を見ながら歌いたいですね。やっぱり、ライブに来てくれるのはめちゃくちゃうれしい。僕からしたら、お客さんの顔を見るのがライブのメインになっています(笑)」

(取材&撮影:TATSUYA ITO)


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