敵だけどその“男気”に見直した…評価が一転する見せ場のあるジャンプ漫画の悪役キャラ3選

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「ヤンキーが捨て犬に優しくしたらとてもいい人に見える」という、“あるある”話がある。普段は悪い奴の意外な一面を見ると、今までのギャップも相まって評価が反転してしまうというもので、これは漫画のキャラ、とくに悪役キャラにもよく見られる現象だ。

「こいつを倒したい!」と思わせるほど憎たらしい敵がふと見せたカッコよさは、いつだって漫画好きを魅了してきた。今回は、読者を見直させるほどの“男気”を見せつけた悪役を振り返ってみよう。

■悪党にもプライドはあった『遊☆戯☆王』バクラ

まずは、高橋和希さんが世に送り出したカードバトル漫画『遊☆戯☆王』(集英社)からバクラを紹介しよう。「千年リング」に宿る邪悪な意思そのものである彼は、善良な高校生・獏良了の体を乗っ取り、物語の裏で暗躍する本作屈指の“悪党”だ。

そんなバクラが意外な一面を見せたのは、バトルシティ決勝トーナメント1回戦における遊戯との命をかけた闇のゲームだ。

遊戯が土壇場で召喚した「オシリスの天空竜」に追い詰められ、敗北必至のバクラ。そんなとき、協力者のマリクが「千年ロッド」の力でバクラの人格を引っ込め、本来の人格である獏良了を呼び覚ます。

闇のゲームに負けた者は命を失う可能性がある。このまま遊戯が勝てば、死ぬのは表に出た獏良了の人格だ。それに気づいた遊戯は攻撃をためらうのだが、

「オレ様にも気に入る勝ち方と 気に入らねえ勝ち方があんだよ…!!」

このセリフとともにバクラは強引に肉体の主導権を奪還し、負けを認める。「オシリスの天空竜」の攻撃を前に、バクラはまるで宿主をかばうように両手を広げながら散っていくのだ。

卑劣な悪役の印象が強かったバクラが見せた男気が印象深い。救いようのない悪党にも悪なりのプライドがある。そう思わせる名シーンだ。

■男の決闘にこだわる熱さ『ONE PIECE』シャーロット・カタクリ

次は、尾田栄一郎さんの『ONE PIECE』(集英社)から、「四皇」ビッグ・マム海賊団の最高幹部シャーロット・カタクリだ。ビッグ・マムに次ぐ実力ナンバー2であり、懸賞金は10億5700万ベリーと、すべてが規格外の強者である。

「ホールケーキアイランド編」でのルフィとの激闘は、ベストバウトの呼び声高い名勝負となった。最初は体を餅にできる“モチモチ”の能力と、数秒先の未来を見る「見聞色の覇気」でルフィを圧倒するカタクリ。

だが、拳を交えるにつれてルフィが少しずつ成長していることに気づき、やがてルフィを自分と戦うに足る好敵手だと感じるようになるカタクリ。海賊として格下にもほどがあるルフィを認める姿勢に思わずしびれる。

さらに、妹のシャーロット・フランペがシビレ針でルフィの邪魔をしたときは、「男の勝負に…!!! 薄っぺらい援護などするな!!!!」と、強く戒め、ルフィとともに「覇王色の覇気」で勝負の邪魔をする“外野”をことごとく気絶させるのだ。

男同士の真剣勝負を尊ぶ高潔さと、ルフィに「あいつを越えたい」とまで言わせた力量を併せ持つカタクリ。サンジを麦わらの一味から奪った悪役の一味だが、それでも「カッコいい」といわざるを得ない魅力の持ち主だ。

■外道なのに敬意を表する心を持つ『トリコ』トミーロッド

島袋光年さんが描くグルメファンタジーバトル漫画『トリコ』(集英社)に登場する虫使い・トミーロッドは、ジャンプ漫画の悪役らしく同情の余地がない外道キャラだ。

部下を切り捨てて自身があやつる虫のエサにしようとしたり、野生のペンギンを気まぐれに惨殺したりと、その行動はまさに残忍そのもの。「センチュリースープ編」で主人公のトリコとの一騎打ちが始まったときは「トリコ! こいつを倒してくれ!」と思ったものだ。

しかし、いざ戦いが白熱するとトミーロッドの意外な一面が顔を出す。善悪を超えて食うか食われるかだけを競い合う“野生の勝負”に感化され、トリコに「こんな闘いは久し振りだ…!!」と語りかけるようになる。そして最終的には、自分と互角の勝負を繰り広げるトリコに敬意を表するまでに至った。

トリコ戦では本来の虫をあやつる戦い方を封じられ、拳で殴りあうスタイルで勝負したのも印象深い。それまで残忍な振る舞いを見せていたからこそ、相手を認めて正々堂々と拳をふるうバトルが際立ったように思う。

数多くの名作漫画が生み出され、昨今では読者の目も肥えてきている。ただ悪いだけのキャラは一面的であり、魅力に欠けると見られることも少なくない。

悪党なのにスジを通すカッコいい一面も持っている。それだけでキャラにぐっと深みが出るし、善悪を兼ね備える人間味に共感できてしまう。悪者キャラが見せる男気とは、そんな秘伝の隠し味のような存在なのかもしれない。

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