【コラム・天風録】0・3秒と26年

 0・305秒。まさに瞬く間だ。六面立体パズルの「ルービックキューブ」を完成させる世界最速記録が生まれた。達成したのは三菱電機のロボット。公開動画ではキューブがブルッと震えたと思ったら、色がそろっていた。スロー再生でないと何が起きたか分からない▲ロボットは人工知能(AI)で色を識別し、高精度モーターでキューブを動かす。若手社員5人が業務の合間を使い、1年7カ月かけて開発した。福山市の同社工場の技術も取り入れた▲ギネス記録の認定証を手にする若者たちの写真を見て、ある英国男性の話題を思い出した。10代終わりにキューブを買い、完成まで26年かかったという。世界キューブ協会に記録がある▲妻は「出会った時には既に取りつかれていた。毎日そればっかり」と振り返る。「インターネットにやり方が出ている」と友人から助言されても自力で続けた。最後にくるりと回して全面そろうと泣いて喜んだという▲0・305秒と26年。同じパズルで生まれた記録だが、前者はものづくりを支える技術者の心意気を、後者は諦めぬ姿勢を教えてくれる。2面までしかそろえたことがないわが身としては、ただただ頭が下がる。

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