【ライブレポート】イングヴェイ・マルムスティーン「宇宙から見ると二つの壁が見える。一つは万里の長城、そしてもう一つが俺様のマーシャルの壁だよ」

デビュー40周年を迎えたギタリスト界の王者、イングヴェイ・マルムスティーン。前回のギタリスト5人による祭典<GENERATION AXE>公演から約5年ぶり、単独公演としては約9年ぶりとなる来日公演を行った。

公演の約1か月半前という緊急な来日公演発表にもかかわらず、東京Zepp DiverCity公演はソールドアウト。未だ日本でも人気は衰えていないようだ。今回の公演スケジュールは名古屋、大阪、東京という順ですでに初日からライブは絶賛されており期待も高まっていた。

「宇宙から見ると二つの壁が見える。一つは万里の長城、そしてもう一つが俺様のマーシャルの壁だよ」と本人の名言(笑)通り、今回のステージセットもマーシャルの壁。その中にはヴィンテージマーシャルも数台、目視できる。

ツアーメンバーであるニック・マリノ(Key, Vo)、エミリオ・マルティネス(B)、ケビン・クリンゲンシュミッド(Dr)と共にオープニング定番曲の「Rising Force」から幕を開けると、シンセのイントロ部分で大量のスモーク演出により真っ白に覆われたステージからイングヴェイが姿を現す。この大袈裟感が相変わらずでいて嬉しい。

そして40周年ツアーに相応しくインストの代表曲やクラシックとヒットナンバー、そして最新アルバムまでを断片的に上手く繋いで披露していく。近年のスタジオアルバムでも感じるが、イングヴェイのプレイは実に丁寧できちんと弾いており、ライブでは更に感情も込められた極上のトーンとなって観客を魅了している。もちろん彼のステージ十八番である大量のピック投げ、ピック蹴りも炸裂であるし、自身がヴォーカルを取る曲ではベースのエミリオがコーラスも担ってバンドらしい一面もある。

「Now Your Ships Are Burned」や「Hiroshima Mon Amour」は今回のサプライズ的な選曲であり、キーボードとシンガーを兼任しているニックはどの時代の曲も高らかに歌い、優れたヴォーカルを披露していた。最新アルバム『Parabellum』からのナンバーも挟み、イングヴェイの肉声でのカウントからクラシック曲のターンへ。バッハの組曲とパガニーニのヴァイオリン協奏曲、そして「Adagio」からの「Far Beyond the Sun」。この流れはお馴染みだが、いつ聴いても素晴らしく、彼の原点ともいうべきナンバー。この楽曲でジャンルを超え、ネオクラシカルというサウンドを確立したと言ってもいいだろう。

中期のヒットナンバー「Seventh Sign」では更に場内も湧き、サビ部分をブレイクして観客に歌わせるお約束もイングヴェイのご機嫌ぶりに拍車をかける。ドラムも非常にタイトで地味ながら役割をきちんと果たしている。メンバーコミュニケーションも前回まではほとんど見られなかったが、今回のステージでは何度もアイコンタクトを交わし、ベースのエミリオとは肩を組む場面や、時折キーボードに向かってピックを投げてみたり、微笑ましい場面が見られた事も驚きだった。

「Evil Eye」や「Trilogy」もイングヴェイ特有のドラマティックな曲展開は歌えるインスト曲でもあり、今聴いても非常に凝った作りで美しい。彼はソングライターとしても若き頃から開花していたし、今も「作曲は常に次の作品」と言っているほど勢力的だ。

後半のサプライズとなった「Brothers」は亡き兄に捧げたナンバーでイングヴェイの泣きの名曲。こういう曲も弾けるところが彼の王者たる所以だと思う。

「You Don't Remember, I'll Never Foget」からの弦切りパフォーマンスや、ギタースローイング&キャッチも健在。ストラトキャスターをキャビネットの上下にこすりつけ、最後にディレイ・フィードバック・ループをセットアップするのもリッチー・ブラックモアやジミ・ヘンドリックスからの影響大だからこそ。

イングヴェイの代表的な白ストラトキャスターは袖に4~5本用意されており、それぞれヘッドのロゴ位置やボディ裏のステッカー等も違っていた。また、「Black Star」でのエレガットギターのオベーションも今回はホワイトカラーになっていたのも新鮮だった。ソロの一部分をホールドし、その間に右手のロレックスで時間の長さを計るユーモアは毎回楽しみな一場面でもあり、全てのパフォーマンスでイングヴェイは本当にショウマンだと思う。

今回のセットリストからも総じてイングヴェイにとっても我々ファンにとってもデビューアルバム『Rising Force』は、やはり特別な作品であるということ。(大阪公演では更にこのアルバムから「As Above, So Below」もセットイン)そしてスタジオアルバムとは違うダイナミックなサウンドと極上のトーンで終始圧倒されるステージであった。

リハーサルでは、日本3公演目にもかかわらず、メンバーと曲のカウントやセットの流れの打ち合わせを綿密に行っていたようだ。

近年は往年のベテランバンドが続々とアニバーサリーを迎えるが、多くのバンドは解散と再結成を経ていたり、長年続けていく中での音楽性が変わる事も多い。イングヴェイに関しては、40年ブレずに自身の音楽と様式美をずっとやり続けてきた稀なアーティストだと思う。体型もかなりスマートに還暦とは思えぬエンターテイナーぶりは、全盛期に日本中のホールクラスと武道館を埋め尽くしていた頃と遜色ないクオリティとエネルギーを感じたし、むしろ現在の方が複雑なアルペジオも弾いていた。

文◎ Sweeet Rock / Aki
写真◎ Yuki Kuroyanagi

<Yngwie Malmsteen ~ 40th Anniversary JAPAN TOUR 2024~>

2024.5.11 Zepp DiverCity Tokyo
1.Rising Force
2.Top Down, Foot Down / No Rest for the Wicked
3.Soldier
4.Intro Valhalla / Baroque&Roll
5.Like an Angel(for April)
6.Relentless Fury
7.Now Your Ships Are Burned
8.Hiroshima Mon Amour
9.Wolves at the Door
10.(Si Vis Pacem)Parabellum
11.Badinerie(Johann Sebastian Bach Cover)
12.Paganini's 4th / Adagio
13.Far Beyond the Sun
14.Seventh Sign
15.Overture / Arpeggios from Hell
16.Evil Eye
17.Smoke on the Water(Deep Purple Cover)
18.Trilogy(Vengeance)
19.Guitar Solo
20.Brothers
21.Figue
22.Drum Solo
23.You Don't Remember, I'll Never Foget
Encore
24.Black Star
25.I’ll See The Light, Tonight

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