オリジナルのティースタンドだけでなく、お重型、一皿ずつサーブされるコース仕立てなど「アフタヌーンティー」の多様化が進んでいます。それに合わせて、美しくセットされたお菓子やフードをSNSにアップして楽しむ活動「ヌン活」も生まれ、映えを狙った演出が加速していると感じられる昨今。もはやアフタヌーンティーはなんでもありの様相になっていますが、「実は食べ方にマナーがある」そうで・・・。
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近年バラエティ化するアフタヌーンティー、「正しい」食べ方は存在するのか?
まず、どのくらいの人がマナーをご存知なのか、『Lmaga.jp』の公式Xで「アフタヌーンティーの食べ方ルールが存在することを知っていますか?」というアンケートをお願いしてみました。すると「知らなかった」は50%、「知っている」は26%、「知ってるけど、気にせず食べていた」が24%で、半数の人はマナーを知らないという結果に(合計232票)。
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『Lmaga.jp』の公式Xで実施したアンケート結果、全232名の回答が集まり「知らなかった」が半数以上を占めた
マナーを知れば今までとは違ったアフタヌーンの楽しみ方がみつけられるかもしれないのでは?ということで、食空間などの暮らしの文化が専門の大阪学院大学短期大学部の教授・土井茂桂子先生に、ティールーム「ザ・スリーベアーズ」(京都市中京区)でアフタヌーンティーをいただきながら教えてもらいました。
■ 「大前提は嗜好品。だから好きに楽しんで」
アフタヌーンティーが生まれたのは19世紀半ばのイギリス、ヴィクトリア女王の時代と言われています。やがて社交の場になったアフタヌーンティーにマナーが生まれ・・・というのが歴史ではありますが「大前提は嗜好品です。だから好きに楽しんでいいんです」と土井先生。それを聞いて内心ホッとしながら、楽しい授業が始まりました。
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現在は「大阪学院大学短期大学部」で教授を務める土井茂桂子先生、食文化やしきたり、食のマナーについて豊富な知識を有す
■ 3段スタンドは「下から?」「上から?」
まず、イギリスのどこの街にもあるティールームで出されているような気軽でありながら王道的アフタヌーンティーのメニューを確認してみましょう。ティースタンドの下段にはフィンガーサンドイッチ(きゅうりのサンドイッチは必須)、中段にはスコーンとクロテッドクリームとベリー系のジャム、上段には焼き菓子やケーキが置かれます。そして美味しい紅茶がたっぷり用意されたらさっそくいただきますが、さてどれから?
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基本的な3段スタンドは1番下から「サンドイッチ」「スコーン」「お菓子」と続く
答えは、サンドイッチ、スコーン、お菓子の順番にいただきます。理由は、サンドイッチのパンが乾いてしまうから。しっとり美味しいうちにという考えです。そのため、焼きたてスコーンが提供される場合は、スコーンが温かいうちに先にいただきましょう。とはいえ「甘いものを食べたら辛いものが食べたくなったりするので、臨機応変に好きに召し上がって構いません。こうでなければならないというものはありません」ということですから、美味しいうちにいただける順番でOKということですね。
■ 「スコーン」は手で食べても大丈夫?
次に気になるスコーンのいただき方です。ティースタンドから取り皿にスコーンやクロテッドクリーム、ジャムを取り、「狼の口」と言われる割れ目でスコーンを横に割ります。ナイフを使うの?と思いますが手で割っていいそうです!というか、「神聖な石」がスコーンの由来なのでナイフは使わず手で割る方がいいとのこと。
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スコーンは「手」を使ってOK、ナイフはなるべく使わない方がいいんだとか。ただし中央に「割れ目」のないスコーンの場合はナイフを使ってもよし
そしてスコーンにクロテッドクリームとジャムをぬり、手に持ってパクパクといただいて大丈夫。ただし王族の方とお茶会をする場合は一口大にしてから、クリームとジャムをぬっていただきます。なかなかそんな機会はありませんから、より上品にいただきたい場合というイメージでよいのではないではないでしょうか。
「イギリスの南西部のコーンウォール州とデボン州はクロテッドクリームの産地なんですね。このふたつによって、クリームとジャムのどちらが先かという論争があるほどで、デボンはたっぷりのクロテッドクリームの上にジャムをつけます。コーンウォールはジャムをぬってからクリームをスプーンでのせます。論争が起きるほどですが、どちらでも好みで召し上がってください。ちなみにエリザベス女王はコーンウォール派だというのは有名な話です」(土井先生)
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左から「デボン派」「コーンウォール派」
意外にもどちらを先に塗るかで味わいに差があるので、自分はデボン派かコーンウォール派か、おしゃべりしながら食べ比べてみても楽しいかもしれません。
人気のアフタヌーンティーのスタンドは、省スペースと省サービスから生まれたものです。広いスペースや十分なサービス要員がいる場合は盛り皿も平置きされます。トングなどがなければすべて手で取り皿に取ります。スコーンやサンドイッチは手でいただきます。ただし、大きなものはナイフを入れても構いません。ケーキはプチフール以外はフォークで食べたらよいようです。
■ 実は「会話が生まれる場所」だった
最後に、今回のようなベーシックなアフタヌーンティーではない、昨今増えている「進化系」の場合のマナーをお聞きしました。答えは「嗜好品ですから、食べたいものから食べればよいのです。お皿の上がきたなくならないように溶けていくものとか、おいしいうちにいただけるように乾いてしまうものから食べていくのがよいですね。温かいスコーンが来たら温かいうちに食べることがベースで、マナーはそれほど気にしなくても構いません」とのこと。
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ちなみにティーカップに入れた砂糖をかき混ぜる際は、スプーンで「グルグル」とするのではなく、なかに注がれた紅茶をならすようにしてスプーンを動かすのが丁寧なマナー
ですが、おいしいイチゴが提供されればそこからイチゴの話をふくらませたり、陶磁器の絵付けに興味を持ってみたりと、もう一歩進められればもっとアフタヌーンティーが楽しめるのではないかと土井先生は豊かなお茶の時間のヒントをくれました。
マナーというと堅苦しく感じますが、歴史や背景、理由があってこそのマナーでどれも納得できる内容でした。もちろんヴィクトリア女王の時代のマナーと今のマナーは異なりますし、集う面々にとっても異なります。こう食べなくてはいけないということよりも、おしゃべりを楽しみながら、気持ちよくチャーミングに過ごせるようにマナーを利用すると考えるのが、今のアフタヌーンティーにはぴったりなのかもしれません。
取材・文・写真/太田浩子
イラスト/よしださきこ
協力/土井桂茂子先生