ネスレ、低所得国のベビーフードに大量の砂糖添加

スイス・ヴォー州オルブのネスレショップに陳列されたベビーフード (KEYSTONE/© KEYSTONE / GAETAN BALLY)

乳児用食品市場で世界的なシェアを占めるスイスの食品大手ネスレは、欧州で流通する自社の育児用粉ミルクが砂糖無添加であることを誇りに思っている。一方、多くの低所得国で販売されるネスレ製品には大量の砂糖が含まれている。

南アフリカで販売されているネスレの生後6カ月以降の子ども向けシリアル製品「セレラック」には1食当たり6グラムの砂糖が含まれる。1食ごとに角砂糖約1個半分を摂取する計算だ。一方、スイスで販売されている同じ製品には、はっきりと「砂糖無添加」の表示がある。

調査を行ったスイスの人権NGOパブリック・アイはその報告書の中で「ダブルスタンダード」だと批判した。報告書は仏語圏のスイス公共放送(RTS)の番組「A Bon Entendeur」で先月公開された。

仏語圏のスイス公共放送(RTS)の番組「A Bon Entendeur」

狙われた低所得国

パブリック・アイと乳児用食品国際行動ネットワーク(IBFAN)は、世界中で販売されているネスレのベビーフード約100種類の成分を分析し、報告書にまとめた。

調査の結論は明白だった。スイスのヴヴェイに本社を構えるこの多国籍企業は、欧州向けの乳児用食品は砂糖無添加、その一方で低所得国向けの製品には大量の砂糖を加えていた。まさにその同時期、世界保健機関(WHO)が子どもの健康管理、特に肥満予防のために小さな子ども向け食品への砂糖使用を大幅に制限するよう勧告していたにもかかわらずだ。

報告書の共著者でパブリック・アイの食品と農業の専門家、ローラン・ガブレル氏は「これらの製品に砂糖を加えることで、ネスレやほかのメーカーは、子どもたちの砂糖中毒・あるいは砂糖依存を引き起こすことだけを狙っている。子どもたちは甘い風味を好むから」と指摘する。「それによって、もし製品がとても甘ければ、子どもたちは将来もっと欲しがるようになる」

アフリカ、中南米、アジア諸国で流通する「セレラック」ブランド78品のうち、75品には砂糖が添加されていた。その量は1食当たり平均4グラム(角砂糖1個分)だ。フィリピンでは、生後6カ月からの赤ちゃんに1日2回与える調査対象製品の1食当たりの量は7.3グラムに上った。

スクロースと蜂蜜の使用

多くの国で流通するネスレ製品「ニド」ブランドも同様だ。パブリック・アイは報告書の中で「ネスレはこれらの製品が『スクロース(ショ糖)無添加』であることを何らためらうことなく強調する。だが実際は蜂蜜という形で砂糖が添加されている。WHOは、蜂蜜とスクロースはいずれも砂糖の一種であり、ベビーフードに使用すべきではないとしている」と指摘する。

「ネスレはそれについて、クイズ形式で非常にうまく説明している。どちらも『体重増加や肥満にすら』つながる可能性があるため、スクロースの代わりに蜂蜜を使用しても『科学的な健康効果はない』としている」

これらについてネスレに問い合わせたが、「当社の製造方法はラベルの表示要件も含め、国際法と現地の法律に準拠している」という一般的な回答しか得られなかった。同社はまた「各国の製造方法のわずかな違いは、法律など複数の要因に依拠する。だが製品の質は損なっていない」

マーケティング戦略

報告書はネスレのマーケティング戦略も批判する。例えばブラジルで販売されている「ムシロン」(セレラックに相当する商品)のパッケージには「免疫を高め、脳の発達を助ける」と記載されている。

ガブレル氏によると、ネスレの戦略はさらにその上を行く。「ネスレのマーケティング戦略の重要な要素の1つが、いわゆる医療マーケティングと呼ばれるものだ。直接的・間接的な製品プロモーションに医療の専門家を関与させる」と説明する。「例えば、パナマではある栄養士がネット上で『ニド1+』という製品を勧めていた。しかしこの製品には1食当たり角砂糖2個分の砂糖が含まれている」

ネスレはこの件に関しても、販売先の各市場の法的枠組みを遵守していると主張する。「当社は事業を展開している全ての国で適用される規制を遵守し、当事者間のコミュニケーションを保証するために厳格な手順を導入している」

沈黙を守る研究所

ガブレル氏は先月17日、RTSの番組「On en parle」にも出演。同氏は調査期間中、スイスの研究所がネスレ製品の分析を拒んだ経緯について語った。「私たちはプロジェクトの内容を公開し、謝礼も支払うつもりでいた。だが複数依頼を断られた。ある研究所は『既存顧客の利益を損なう可能性がある』ため協力はできないと回答した。このような反応から分かるのは、ネスレがスイス国内で強い力と保護を謳歌していることだ」

番組はネスレに対し添加糖類の量が国ごとに異なることへの説明を求めたが、得られた回答は以下の通りだった。「各国で製造方法がわずかに異なるのは、規制や現地で入手可能な原材料などの複数の要因による。決して品質を損なうものではない」

これに対し、ガブレル氏は「ネスレがスイス国内のベビー製品の砂糖使用をやめたのは、規制や砂糖を入手できないことが理由ではない。それがもう許容されないと知っている消費者の期待に応えるためだ。さらに、それは『わずかな違い』ではない。ネスレはスイスでは乳児用食品に砂糖を一切使用しないが、他国ではかなりの量を入れた製品を売っている」

ネスレ側は「当社は常に、自社製品に含まれる砂糖については蜂蜜からのものも含め、全て記載している」とする。だが、それによって消費者は製品の添加糖類の情報を把握できていると言えるのか。ガブレル氏は、そうとは限らないと話す。「製造者は、食品表示に糖質の記載が義務づけられている。添加糖類については、大半の国では必須ではない」

仏語からの翻訳:吉田公美子、校正:宇田薫

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