『あぶない刑事』が38年の時を超えて首位 映画史において特異な2つのポイント

5月第4週の動員ランキングは、7週ぶりに1位が入れ替わり、舘ひろし&柴田恭兵主演の人気ドラマ&映画シリーズの最新作『帰ってきた あぶない刑事』が、オープニング3日間で動員25万1600人、興収3億5300万円をあげて初登場1位となった。『あぶない刑事』が映画化されるのはこれで8作目となるが、同シリーズは二つの点で極めてユニークなシリーズと言えるだろう。

一つは、言うまでもなくその長寿ぶりだ。『あぶない刑事』の最初のTVシリーズの放送が始まったのは1986年。以来、38年にわたって主演2人はもちろんのこと、浅野温子、仲村トオルといった主要キャストの顔ぶれにまったく変更がないというのは、世界的に見ても他の長寿シリーズと比べても極めて異例のこと。キャストが揃って現在も芸能界で活躍中であるということは、それぞれのキャリアにおいて本シリーズが大きな役割を果たしてきたことを意味しているわけだが、加えて役者の健康問題や不祥事などもすり抜けてきたという「幸運」も、このシリーズは持ち合わせている。

もう一つは、続編を重ねていくにつれて興収が下がっていくというのが多くの長寿シリーズにみられる傾向で、『あぶない刑事』も2005年公開の『まだまだあぶない刑事』まではそのルートを辿っていたのだが、11年のインターバルをおいて復活した2016年公開の『さらば あぶない刑事』で再び上昇気流にのったことだ。今作『帰ってきた あぶない刑事』のオープニング記録はその前作との比較で121%。前作までは土曜日の公開だったので、単純に「前作超え」とはまだ言えないが、ほぼ同じ水準を維持していることに。今回は8年ぶり、前回は11年ぶりと、ファンの新作への飢餓感も見定めて「続編を作りすぎない」ことも功を奏しているのだろう。

映画ファンとして感慨深いのは、本作においても「制作 セントラル・アーツ」のクレジットが健在であったことだ。1980年に元日活、当時東映の黒澤満が設立した同社は、東映系の松田優作主演作品や角川映画、その後は『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズなどで、80年代の2本立て公開を前提としたプログラムピクチャーを支えてきた制作プロダクション。『あぶない刑事』も1986年公開の1作目は香港映画の『七福星』、2作目は1988年公開の古村比呂主演作『・ふ・た・り・ぼ・っ・ち・』と同時上映だった(その時期までの多くの日本映画の動員や興収については、2本立てで公開されていたことも考慮する必要がある)。今回の『帰ってきた あぶない刑事』では同シリーズの「年齢」と同年代となる、まだ30代の原廣利が監督として初登板を果たしているが、キャストや脚本家だけでなく、制作プロダクションもまた『あぶない刑事』と共に2020年代までサバイブしてきたことになる。

(文=宇野維正)

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