水産庁が新たに4種類目ナガスクジラを商業捕鯨の対象に 今後若年層がクジラ肉を食べるようになるのか 最新事情

世界最大の哺乳類・クジラ ※画像はphotolibrary

海の上へと顔を出し、ブッシャ―と勢いよく潮を吹く姿でおなじみのクジラ。そんな海の巨大生物に関して大きな決断が下された。水産庁は、2019年に再開した商業捕鯨の対象に、世界最大の哺乳類であるシロナガスクジラに次ぐ大きさのナガスクジラを追加する方針を5月9日に固めたのだ。

全国紙社会部記者が語る。

「日本は1988年を最後に19年まで商業捕鯨は再開できませんでした。空白期間中は国際的な取り決めに則って調査捕鯨を実施。それでも毎年、設定された捕獲枠内目一杯までクジラを捕獲する日本には、他国から冷たい視線が浴びせられてきた。そして18年、日本はついにクジラ資源を管理するIWC(国際捕鯨委員会)を脱退。

商業捕鯨が再開された現在では、ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラの3種類を捕獲しています。昨年は3種類で計294頭が捕獲されました。しかし、商業捕鯨が再開されたからといって、巷でクジラ肉を見かける機会はそうない。商業捕鯨の対象をもう1種類増やす必要があったのか、という声も聞こえてきますね」

日本人がクジラを捕って食べるのは、縄文時代から続く大切な食文化。戦後の食料難もクジラをタンパク源に命をつなげ、50代以上の人たちなら給食などでも頻繁に食べていたはずだ。

しかし、令和の家庭の食卓にクジラ肉が並ぶことは珍しい。居酒屋でクジラベーコンを見かけた中高年の酔客が「お、懐かしい」と言って注文しているのは見かけても、スーパーマーケットで奥様方が「あら、クジラ安いわね」と喜んでいる姿はなかなか見ないだろう。

「実際、クジラ肉の価格は高止まりしています。食用部位としては一般的な赤肉部分で100グラムおよそ600円。牛肉なみの値段です。そのため消費量も右肩下がり。ピークの1962年度には23万トンもの消費がありましたが、近年はおよそ3000トン程度にまで激減しているとも言われています」(前同)

日本は商業捕鯨をしているため、年間に国内だけでも2000~2500トンものクジラ肉の供給が可能。国内で消費されるクジラ肉は、十分に賄えているのである。それにもかかわらず昨年、北欧アイスランドの捕鯨業者からクジラ肉を約2700トンも輸入していたという。

「業界関係者たちは“流通量を増やせば価格も下がり、新たな需要も生まれる”という考えのようです。政府も巨額の税金を使い、学校給食での鯨肉利用や、捕鯨業者による販売促進などを支援。輸入までしているのですが、なかなか価格は下がりません」(同)

■クジラ肉の価格が牛肉並みに高い理由

国際社会からの理解が得にくい日本の捕鯨文化。活動をめぐっては、環境保護団体『シーシェパード』が過激な抗議行動を繰り返し、捕鯨発祥の地である和歌山県を描いた映画『ザ・コーブ 』(2009年)などでも日本人が悪者として描かれている。

こうした国際的な世論に真っ向から反論した映画『ビハインド・ザ・コーヴ〜捕鯨問題の謎に迫る〜』(15年)がNetflixでも配信され、最新作『鯨のレストラン』(23年)も話題を呼んだ映画監督の八木景子さんに、日本の商業捕鯨の今後について話を聞いた。

「持続可能な範囲であれば、日本はもっとクジラを捕るべきだと思います。ナガスクジラだけでなく、もっと捕る種類や、捕獲頭数を増やすべきです。クジラ資源が多い南氷洋(南極海)などでも捕鯨できるようになることを望んでいます。そのためにも、国際世論を味方につけるよう、映像でクジラ食の魅力とクジラ資源が多いことを伝えています」(八木監督)

日本で現在、行なわれている商業捕鯨は、日本の領海とEEZ(排他的経済水域)内のみ。捕獲量も、IWCを脱退したにも関わらず、IWCが定める非常に厳しい捕獲計算に従っている。

「捕獲量で言えば今は底辺。だからクジラ肉の値段も高いんです。捕獲量の計算式も(クジラの個体数の)“増加量”に基づいて、持続可能な範囲でマックスまで捕れば、価格も下がってクジラ肉が食卓に並びやすくなるはずです。ただ、国際会議での解決は難しい。(反捕鯨団体などの)映像によって歪められた分、映像によって是正し、理解を広めようとしているんです」(前同)

八木監督は、これまでの映画作品などで「クジラの過度な保護が原因で、魚が大量に食べられ(全人類が食する3~5倍の魚をクジラが消費)、生態系が崩れている」と主張。また、本来であればクジラ肉は自給自足できるはずなのに、輸入依存になっているのは「おかしい」と指摘する。

「日本全体の食糧問題と同じく、クジラも輸入依存になっています。国産食材を重要視しないと、非常時の食料確保が難しくもなる。今あるタンパク資源の活用に目を向けるべきです。食料自給率の低い我が国にとって、クジラの問題を解決すれば、他の分野においても輸入依存型から脱出できるヒントになるかもしれません」(同)

一時期に比べ、捕鯨のハードルは下がっているようだが、それと消費量の拡大はすぐには結びつきそうにない。生まれたときから牛肉などを食べ慣れているZ世代が、わざわざクジラ料理を選ぶとは考えにくいからだ。

日本で、文化として長く親しまれてきた捕鯨活動。商業捕鯨は再開したものの、再びクジラ肉が家庭料理として受け入れられる日は来るのだろうか。

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