「甘いような辛いような美味しいもの」って? 『銀河鉄道999』に登場する“地球にはない恐ろしい魅力のある食べ物”

松本零士著『君たちは夢をどうかなえるか』(PHP研究所)

松本零士さんによる『銀河鉄道999』は、さまざまな惑星を旅する壮大なSF作品である。銀河超特急999号に乗った主人公の少年・星野鉄郎と謎の美女メーテル。ときには危険な目にも遭うが、旅の醍醐味でもある多彩なグルメも見どころのひとつだろう。

地球とは違う惑星に降り立った二人は、見たことのないような不思議な食べ物に出くわすことも多い。なかには人間が食べられないようなものもあるが、魅力的で興味を引くグルメも意外と多いのだ。今回はそんなちょっと怖いけど食べてみたい『銀河鉄道999』に登場する魅力的な食べ物を紹介したい。

■ジャリジャリのカニやエビ…「砂の海のロンメル」

コミックス13巻に登場する「砂の海のロンメル」で、鉄郎たちは砂だらけの惑星「砂漠のキツネ」に降り立つ。

星全体が砂で覆われたこの惑星では、到着したホテルのレストランで提供される食事も砂まみれである。お皿に盛られた食材は、一見するとカニとエビが合体したような少々グロテスクなもの。鉄郎が 「な、な、なんだい、これは!!」と困惑すると、ウェイターらしき男性が「砂ガニですよ。こっちは砂エビ、これは砂ダコ、砂イワシ」と食材の説明をするのであった。

おそるおそるそれらを食べた鉄郎は「なんだかジャリジャリするよ、盲腸になったらどうしよう」と不安を口にする。しかしメーテルは「大丈夫よ」と笑みを浮かべながら堂々と言い放っており、かなり冷静な様子。結局、鉄郎は提供された砂ガニなどをすべて食べて「う~~満腹……」と満足するのであった。

その後、鉄郎はシャワーを浴びるために浴室に入るが、シャワーから出てくるのはお湯ではなく砂である。すべてが砂である世界であるため、料理も少々砂っぽいのは仕方ないのかもしれない。カニやエビ、タコなどの海産物は今ではすっかり高級食材なため、少し砂が混じっていても美味しいのであれば一度試してみたいものである。

■惑星そのものが美味しい!?「停時空間のかじられ星」

コミックス5巻に登場する「停時空間のかじられ星」は、惑星自体が美味しく食べられるという珍しい星である。

ある日、「かじられ星」と呼ばれる、まるでリンゴをかじったような形をした惑星に降り立った鉄郎とメーテル。彼らはそこで屋台のラーメンを食べ、そのあまりの美味しさに驚愕する。

すると突然、ものすごい音とともに地響きが起こり、驚く鉄郎たち。ラーメン屋の店主は“この星の地面は美味しいから、よその星の人たちが輸送船で地面を運んでいる”と説明した。それを聞いた鉄郎は、さっそく地面に落ちていた泥を口にし「ほんとだ!! 甘いというか辛いというか、とにかくおいしいや!!」と、感激するのであった。

“甘いような辛いような、とにかく美味しいもの”というのは、なかなか想像がつかない。一度は食べてみたいものである。しかも、お腹が空いたときに地面を食べれば空腹が満たされるなんて、非常に便利であろう。

しかし、この魅力的な惑星は、他の惑星の輸送船によって地面を削られ続け、最終的にはかじり尽くされてなくなってしまう。限りある大切な資源をどう使うかという問題を、あらためて問いかけているような奥深いストーリーである。

■グラスに注いだ命の炎「喰命聖女」

コミック10巻に登場する「喰命聖女」は、人の命を炎にして飲むクーフレームという女性が登場する。

ある日、鉄郎とメーテルは年間99%が雨の日という「雨が池」という星に降り立つ。その後、洪水に巻き込まれた鉄郎はメーテルとはぐれてしまい、ひとまず頑丈な建物に避難する。しかし、その場所は命の火を飲むクーフレームの館であった。

部屋中に燃える青い炎は、触れても熱くない。クーフレームはその炎を「この世で一番おいしい飲みもの……」と言い、鉄郎やメーテルの体から命の炎を奪おうとするのであった。

当時アニメでこのエピソードを見た筆者だが、とても印象に残っている。青い炎で、しかも美味しくて飲める炎ってどんな味なんだろうと憧れたものだ。その後、姉と一緒にドライアイスの煙を炎に見立て、食してみようとしてみた記憶まである。もちろんむせるだけで終わってしまったが……。

命の炎を奪われそうになった鉄郎であったが、最終的には彼の熱く燃え上がる炎を見た部下のアークが人間だった頃を思い出し、鉄郎の炎の代わりに自らの命の炎を差し出すことで窮地を救う。「若者の火は迫力があって、熱く燃えているから……」という、メーテルの最後のセリフがとても印象的だ。

『銀河鉄道999』には実に多くのグルメが登場する。美味しそうなものと口にはしたくないものに分かれるが、今回紹介したような「ちょっと怖いけど食べてみたい」魅力あるグルメも多いのだ。

残念ながら地球にはない食べ物なので口にすることはできないが、きっと宇宙のどこかにある料理だと空想し、味を想像してみるのも面白いだろう。

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