「現場の警官が一番つらいだろう」。トップが矢面に立たない…これが警察文化なのか。前代未聞、前最高幹部の逮捕会見にも本部長は現れず。県民の信頼どころか、内部にも不信渦巻く 鹿児島県警

前生活安全部長逮捕について説明する西畑知明警務部長=31日、県警本部

 鹿児島県警は5月31日、職務上知り得た秘密を職を退いた後に漏らしたとして、3月まで県警本部生活安全部長を務めた元警視正、職業不詳の男(60)=鹿児島市紫原5丁目=を国家公務員法(守秘義務)違反容疑で逮捕した。県警は「捜査に支障がある」として認否を明らかにしていない。最高幹部の一人である生活安全部長経験者の逮捕は極めて異例。

◇地方警察だけの意向ではないはず

 たたき上げで階級を上り詰めた前鹿児島県警本部生活安全部長が、国家公務員法違反容疑で逮捕された。最高幹部の一人が現職中に知り得た情報を、退官直後に第三者に漏らしたとされる前代未聞の事件。31日、現職警察官や県警OBの間に「職責への自覚と責任感が欠落している」「組織に与える影響を考えなかったのか」と落胆が広がった。

 ある現職警察官は「まさかとしか言いようがない。まだ続くのか不安。徹底的に解明し一掃してほしい」と話す。県警幹部は「ショックで言葉にならない。監督、指導する立場として引き締めてやるしかない」と険しい表情を浮かべた。

 「個人情報は本来、拳銃と同じくらい慎重に扱うべき。私物のように持ち出し無責任に外部に流すなんてありえない」。元県警幹部の男性は現役時代、部下に逮捕者が出れば辞職する覚悟だった。上司の責任感が部下の緊張感を高め、組織自体を引き締めるとして「警察の権限の重さを自覚し、一人一人が人間力を高める必要がある」と訴える。

 野川明輝本部長は30日の県議会で、相次ぐ不祥事の一因に新型コロナウイルス下で希薄になった人間関係を挙げた。別のOBは「コロナのせいにしないでほしい。一つ一つの不祥事に向き合っていれば違う未来があったはず」と指摘する。31日の逮捕後も、会見は野川本部長ではなく警務部長が対応した。「元警視正の逮捕で本部長が出て来ないなんて。警察官の仕事に誇りを持っていたが、最近は前職を伝えるのが恥ずかしい」

 監察部門の経験があるOBは「会見対応者の人選や文言は警察庁から細かくチェックされていた。地方警察だけの意向ではないはずだ」という。「本部長が矢面に立てば任命した国家公安委員会の責任も問われるだろう。トップに恥を欠かせないように立ち回る文化は昔から変わらない」

 しわ寄せを被るのは、24時間体制で治安を守る現場の警察官だ。あるOBは「信頼が失墜した中で職務にあたるのはつらいだろう。必ず後輩たちが頑張ってくれる。使命感は消えていないはずだ」と思いやった。

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