【目白台】永青文庫 初夏展「殿さまのスケッチブック」はワクワクする動物や植物、虫たちの絵がいっぱい!

あふれる好奇心と探求心「殿さまのスケッチブック」

永青文庫で開催中の初夏展「殿さまのスケッチブック」[2024年4月27日(土)~6月23日(日)]を見て来ました。

江戸時代(18世紀)大名たちの間に「博物趣味」が流行。「博物図譜(はくぶつずふ)」作りに熱中する大名も現れました。

あふれる好奇心とワクワクする探求心が伝わって来る「殿さまのスケッチブック」永青文庫の博物図譜(はくぶつずふ)が33年ぶりに展示される貴重な機会です。

出典:リビング東京Web

博物趣味大名のさきがけ細川重賢

江戸時代、長崎に入った中国の書籍『本草綱目』林羅山(はやしらざん)が幕府に献本。日本の博物学は、中国の「本草学」の影響を受けて発達して来ました。

8代将軍徳川吉宗(とくがわよしむね)の時代には、全国の産物調査が行われ、本草学者・丹羽正白(にわしょうはく)による産物調査では図解も行われたそうです。

18世紀に入り自然への関心の高まりとともに、博物図譜の制作に熱を入れる大名。そのさきがけが、肥後熊本藩の細川重賢(ほそかわしげかた)高松藩の松平頼恭(まつだいらよりたか)と言われています。

重賢博物図譜は、鳥や動植物、魚介や昆虫に至るまで、その生態までリアルに描いた描写が秀逸です。

《細川重賢像》

肥後熊本藩6代藩主・細川重賢は、藩政改革を行い「肥後の鳳凰」と称されています。一方で、動植物や昆虫に強い関心を寄せる殿さまでした。

衣冠束帯や、裃ではなく普段着の姿で描かれています。後ろにを置き、毛皮でしょうか。細い毛の敷物が敷かれています。

筆者の竹原玄路(たけはらはるみち)は、重賢の側近熊本藩御用絵師・矢野雪叟(やのせっそう)に絵を学んでいます。

出典:リビング東京Web

美しい、光りかがやく、珍しい動物たち

カニの隣に貂(てん)《毛介綺煥(もうかいきかん)》

《毛介綺煥》には125図の哺乳類、爬虫類、魚類の図が貼り込まれています。

「毛・介」は動物・貝類、「綺・煥」はうつくしい・光りかがやくさまという意味があるそうです。

赤い甲羅が鮮やか「アサヒガニ」甲羅のぶつぶつした質感や、足の形まで迫力ある詳細な描写が目を引きます。

右隣には毛並みがフワフワした「貂(てん)」の図があり、足の爪の先まで毛の1本1本を描いています。

重賢には動物たちの生命が、美しく光りかがやいて見えていたのでしょうか。

出典:リビング東京Web
出典:リビング東京Web

珍しい生きものを集めた《珍禽奇獣図(ちんきんきじゅうず)》

《珍禽奇獣図》は、珍しい鳥や動物の図83図貼り込んだ画帖です。

冒頭に描かれているのはです。長い鼻、大きな耳、足の爪とシワが写実的に描かれていて、今の時代に見てもだと分かります。

享保13年(1728)、長崎に象が舶来し、徳川吉宗に献上されました。

象は江戸まで歩いて移動したとか。絵のモチーフとしても江戸の人々の興味と好奇心を搔き立てたのではないでしょうか。

同図には、カワウソや猪のような日本の動物も描かれていますが、ヒョウのような珍しい動物も描かれています。

また、浜町狩野家・狩野常川幸信(かのうじょうせんゆきのぶ)の図もあり、弟子の尾張藩御用絵師・今村随学(いまむらずいがく)の名も見られます。

中には「仙台侯家蔵図」など大名同士で図譜の貸し借りをしていたことが分かるものもあります。

出典:リビング東京Web

参勤交代は虫や植物採集と観察の絶好のチャンス

《艸木生(そうもくいき)うつし》《虫類生写(ちゅうるいいきうつし)》

江戸幕府から大名に課された参勤交代

江戸から最も遠かった薩摩藩(さつまはん)のあった鹿児島県東京直線距離は約960km。現代でも高速道路や下道を行っても1300km~1400kmになります。

遠方の諸藩参勤交代は、1か月以上の日数をかけて、かなりの長距離を移動していたと想像出来ます。

藩主・細川重賢にとって参勤交代は、様々な虫や植物を目にする絶好のチャンスだったようです。

《艸木生うつし》《虫類生写》に記載された共通する年号や地名重賢の「懐中日記」を照らし合わせると、重賢が参勤交代の途次虫や植物の観察をしていたことが分かるそうです。

出典:リビング東京Web
出典:リビング東京Web

迫真の昆虫描写《昆虫胥化図(こんちゅうしょかず)》

《毛介綺煥》と並んで迫真の描写が冴える《昆虫胥化図》

「胥(しょ)」とは、胡蝶の意味だそうです。

同図は、日本初の昆虫生態記録です。昆虫幼虫から蛹(さなぎ)になり、羽化して成虫になるまでの様子を時系列で描いています。

虫かごの網が描かれた図もあり、重賢が実際に飼育・観察させていたと考えられています。

芋虫から飼育して羽化まで観察させるのは、よほどの虫好きの殿さまだったと感じました。

出典:リビング東京Web

江戸のボタニカルアート《牡丹芍薬生写(ぼたんしゃくやくせいしゃ)》

熊本城の南、藩主の屋敷「花畑屋敷(はなばたやしき)」に植えられた牡丹と芍薬60図が描かれた《牡丹芍薬生写》

花好きの殿さまであった10代藩主・細川斉護(ほそかわなりもり)の時代に制作されたそうです。

筆者の狩野養長(かのうおさなが)は、肥後狩野派9代目狩野伊圭弘信の養子となり、江戸へ出て奥絵師木挽町狩野家当主狩野養信に学んだ絵師です。

古絵巻の模写を多く残したそうで、「生写」とされていますが、花弁の色使いや描線には絵画的な花の麗しさを感じさせます。

江戸のボタニカルアートです。

出典:リビング東京Web

「自然をデザインした工芸」と「博物図譜」の面白さ

2階展示室では「自然をデザインした工芸」として細川家伝来の能・狂言の道具や、自然をモチーフにデザインした工芸品を見ることが出来ました。

繊細に、時に抒情的に描かれた植物や昆虫などのモチーフは、古くから日本人に親しまれ、愛でられて来たデザインです。

草花虫類デザインした工芸品と、博物図譜とを見比べてみると面白いかもしれません。

理知的で客観的な観察眼で描かれた動植物や昆虫の図生き生きとしていて、現代にも通じる純粋な好奇心と探求心を感じさせてくれます。

永青文庫、初夏展「殿さまのスケッチブック」は6月23日(日)まで。

是非お出かけください。

出典:リビング東京Web

文京区立肥後細川庭園

永青文庫から坂道を降りると肥後細川庭園があります。池の周りの新緑が気持ちよく、ツツジを始め初夏の花がこれから咲いてゆく季節を迎えていました。

※肥後細川庭の建物や日本庭園は無料で入れます。

〇初夏展「殿さまのスケッチブック」

会期:2024年4月27日(土)~6月23日(日)

※会期中、一部場面替えをいたします。前期 4月27日~5月26日、後期 5月28日~6月23日

※事前予約なくご覧いただけます。

〇公益財団法人 永青文庫

URL:https://www.eiseibunko.com/

住所:〒112-0015 東京都文京区目白台 1-1-1

TEL:03-3941-0850

開館時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)

休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌平日が休館)、展示替期間、年末年始

入館料:一般 1000円、シニア(70歳以上) 800円、大学・高校生 500円

※中学生以下、障害者手帳をご提示の方及びその介助者(1名)は無料

※臨時に休館や開館時間の短縮を行う場合があります。最新の情報はX(旧Twitter)またはWebサイトにてお知らせします。

交通:JR目白駅(「目白駅前」バス停)・副都心線雑司が谷駅出口3(「鬼子母神前」バス停)より、都営バス「白61 新宿駅西口」行きにて「目白台三丁目」下車徒歩5分。

都電荒川線早稲田駅より徒歩10分。有楽町線江戸川橋駅(出口1a)より徒歩15分。東西線早稲田駅(出口3a)より徒歩15分。

※一般車両用駐車場はございません。周辺の有料駐車場をご利用ください。

〇文京区立肥後細川庭園

住所:〒112-0015 東京都文京区目白台1-1-22

TEL:03-3941-2010

開園時間

日本庭園:2月~10月 午前9時から午後5時まで (但し、入園は午後4時30分まで)、11月~1月 前9時から午後4時30分まで(但し、入園は午後4時まで)

松聲閣(しょうせいかく):午前9時から午後5時まで

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