フィリピンの音楽シーンに注目 ラジオ局が運営する画期的な移動型スタジオパフォーマンスとは?

<土井コマキのアジア音楽探訪 Vol.4>

今回はフィリピンに注目します。私の英語のオンラインレッスンの先生がフィリピン在住のフィリピン人の女性なのですが、彼女に教えてもらったことや、私のフィリピン人のラジオDJ仲間が教えてくれたことを交えながら、今回は書いていこうと思います。

フィリピンといえば、ボーイズグループSB19の「GENTO」がダンスチャレンジなどでバズっていたので、日本でも見たり聴いたりしたことがある人は多いかと思いますが、メンバーKenのソロ名義、FELIPへの濃いインタビュー記事がリアルサウンドにあります(※1)。言語を含め自分たちのルーツへの誇りが強く、世界にアピールしたいというのが現在の表現者たちのムードなのだなと感じました。私の英語の先生曰く、SB19はフィリピンのローカルな言語を使っているというところも推しポイントなのだそうです。

私はファンダムを外から眺めるのが好きなのですが、SB19のファンダム名はA’Tinで、タガログ語の「私たちの」という意味の「アティン」と、19「ナインティーン」の前の18「エイティーン」に由来する名前なのだそう。尊い~。こういうエピソードが大好きなんですよね。

さて気になる「OPM」というワードがあります。「Original Pinoy Music」の略で、フィリピンでフィリピン人が作る音楽のこと。英語を使っている曲でもOPMと呼ばれています。日本の外務省のホームページによると、フィリピンの公用語はフィリピノ語と英語で、実は180以上の言語があるそうです。なので、音楽に限ったことではなく、英語とフィリピノ語、タガログ語などを混ぜて使われているのだとか。その感じが聴いていてめちゃくちゃ面白いなと思うんです。180もある言語のどれが使われているのか私には判別できないので、一括りにすると失礼かもしれませんが(実際、英語の先生に聞いてみたら、方言ではなく全く違う言語なので全然意味が分からないらしいです)、英語ではない言葉の響きが、ラップに特に似合う感じがします。

Ez Milは、去年の夏にEminemとDr. Dreのレーベルと契約した、英語、タガログ語、イロカノ語を使う、フィリピン系アメリカ人ラッパー。雑誌『Esquire』のフィリピン版「Esquire Philippine」に去年Musician of the Yearとして選ばれ、今年はForbes 「30 Under 30 ASIA 2024」のリスト入りもしています(日本からはアイナ・ジ・エンドや新しい学校のリーダーズがリスト入り)。ちなみにEminemが惚れたのは「Up Down (Step & Walk)」という曲で、このMVもクール!

そんなEz Milがブレイクするきっかけになったのが、「Wish 107.5」というYouTubeチャンネル。日本の「THE FIRST TAKE」のようなスタジオでの一発録りのパフォーマンス動画で、なんとフィリピンのラジオ局Wish 107.5が運営しているんです。

これが画期的で面白い。ガラス張りのバスを改造したラジオ局のモバイルスタジオなんですよ。バスだから色んなところに移動できる。ファンに囲まれる形でバスの中でパフォーマンスするんです。これからのミュージシャンのパフォーマンスをまず無料でガラス越しにたくさんの人に見てもらって、フックアップすることができますよね。ラジオ局も目的は「インディーズアーティストにスポットライトを当て、彼らを音楽業界に紹介すること」とインタビューに答えています(※2)。実際、こうして私もチャンネル登録までして見ていますし、アプリでラジオ放送も時々聞いています。貢献度は高いですよね。しかもアメリカで活動しているフィリピンにルーツがあるミュージシャンを応援するために、「Wish USA」も立ち上げています。フィリピンの人に話を聞いてみると、やはりこのラジオ局はヒット曲を中心に、インディーミュージシャンをフックアップすることにも注力している局なのだそうです。そんなわけで、この「Wish 107.5」で出会った気になるバンドをあと2組ピックアップします。まずは、Lola Amour。

スタジオライブなのに、めちゃ迫力もあって、楽しそうでしょう? ファンキーな演奏と、シティポップ的なメロディもいい! 彼らのInstagramを見るとSolenadというショッピングモールのライブの様子がモーメントにまとめられているんですが、黄色い歓声がすごくて彼らの人気ぶりを知ることができます。そもそも人気はあったらしいのですが、2023年6月にリリースされた「Raining in Manila」という曲が彼らをネクストステージに連れて行ったそうです。ENHYPENのJAKEがSNSのライブ配信中にファンからオススメされて聴いたり、GOT7のBamBamがライブでカバーしたり、曲の良さに色んな人が気づいたんですね。ついには今年の1月、Coldplayのフィリピンでのアリーナ公演のアンコールで、「雨の中、車でここに来たんだけど、頭に浮かんだ曲はたった一つだった」と言ってクリス・マーティンがこの曲を口ずさんだら会場中から大歓声! しかもLola Amourがゲストで登場してセッションするという奇跡! その動画はたくさんSNSにあがっているので検索してみてください。会場の興奮がすごいので。MVも面白いので載せておきますね。

さて、Coldplayのフィリピン公演は2日間あったのですが、2日目に登場したOPMの若手バンドもユニークなので、さすがの目利きだなと思います。もちろん「Wish 107.5」にも登場しています。

Dilawは2021年結成。最初はヒップホップユニットで、今は6人組バンド。バスの周りに集まっている人たち、制服が多いように見えるのだけど、学生に人気なのかな。2022年リリースのこの曲「Uhaw (Tayong Lahat)」はフィリピン国内のSpotify、Apple Music、Billboard、YouTubeで1位になったり記録を塗り替えたりと、エポックメイキングなバラード。ちなみに2023年には注目の100組「The NME100」にピックアップされています。

この曲「Orasa」もゆったりとスイートなムードですが、中盤の「暦が逆戻り」という歌詞の部分で、音がグニャーと歪むアレンジが効いてます! そしてみんなファッショナブルですよね。バンド内に兄弟が2組いるらしいので、阿吽の呼吸とかお互いへの理解とか並々ならぬものがあるんだろうなと思います。

私にとってはまだ行ったことがない国、フィリピン。いつかこのバンドたちのライブを観てみたいですし、フィリピンにも行って、このバスに遭遇してみたいです。ラジオ局のInstagramを見るとどうやら韓国での展開が予定されているようです。ちなみにWish 107.5はリスナーのことをWishersと呼んでいるんですよ。素敵だなぁ。羨ましい。実は今回メールで質問を送ったのですが、お返事をもらえませんでした……。どなたか繋いでいただけませんか? 取材したい!

※1:https://realsound.jp/2024/05/post-1659498.html
※2:https://myx.global/wish-bus/

(文=土井コマキ)

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