【シンガポール】23年の東南アPE投資4割減[金融] 経済低迷や高金利影響、米社調査

東南アジアの2023年のプライベートエクイティ投資は、シンガポールなど規模が大きい国での低迷が目立った=シンガポール湾岸部(NNA撮影)

東南アジアの2023年のプライベートエクイティ(PE)投資額は前年比36%減の90億米ドル(約1兆4,150億円)となったことが、米コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのリポートで明らかになった。投資額が多いシンガポールとインドネシアの低迷が目立った。マクロ経済の不透明さや高金利などを受け、投資家の間で警戒感が広がったことが背景にある。PE市場の回復には向こう3~5年かかるとみる投資家が多い。

ベイン・アンド・カンパニーが発表した報告書「東南アジア・プライベートエクイティ2023イン・レビュー」によると、東南アジアのPE投資額は18~20年に100億~110億米ドルで推移した後、21年には270億米ドルまで急増して過去最高を更新。シンガポールやインドネシアで投資が活発化したことが寄与した。22年は一転して48%の急減。23年は前年をさらに下回る水準となった。

PE投資件数も、21年の211件をピークに22年は182件、23年は109件と2年連続で前年を割り込んだ。

23年のPE投資額を国別にみると、22年に特に多かった2カ国の低迷が目立った。1位は前年に引き続きシンガポールで37億米ドル。東南アジア全体の約4割を占めたが前年比では5割減となった。前年2位だったインドネシアは44%減の19億米ドルで3位に下がった。

一方、前年3位のマレーシアは53%増の23億米ドルで2位に浮上。4位のベトナムは75%増の7億米ドルに伸びた。

PE投資件数でもシンガポールとインドネシアは不振だった。1位はシンガポールで62件。東南アジア全体の約6割を占めたが、前年比で37%減少した。2位のインドネシアは約6割減の21件。ベトナムは10件、マレーシアは9件でいずれも前年からほぼ横ばい。その他の国は53%減の7件にとどまった。

ベインのシニアパートナー兼東南アジアPEプラクティス部門代表、ウスマン・アクタル氏はNNAに対し、「23年に投資額、投資件数が落ち込んだ主因はマクロ経済の不透明感が強まったため」と指摘。長引く高金利でプライベート・デット(相対的に信用力の低い企業に対し、投資家から集めた資金を融資の形で貸し出すこと)にかかるコストが上昇したことや株式市況の低迷を受け、投資家間で警戒感が広がったほか、地政学的緊張の高まりも追い打ちをかけたと付け加えた。

マレーシアでは23年に現地の医療サービス大手コロンビア・アジア・ヘルスケアが同業ラムゼイ・サイムダービー・ヘルスケアを56億8,300万リンギ(約1,900億円)で買収した大型案件があり、ベトナムではホーチミン市のFV病院がシンガポールの民間医療大手トムソン・メディカル・グループに約4億米ドルで買収された。両国ではこうした案件が投資額を押し上げたと説明した。

■出口価値も低迷

23年のPE投資額を業種別にみると、東南アジア全体ではインターネット・テックの割合が最も多かった。次に多いのはヘルスケアで、マレーシアのコロンビア・アジア・ヘルスケアの買収案件が押し上げた。金融サービスや先端製造・サービス、エネルギー・自然資源への投資も多かった。

PEの出口価値(新規株式公開=IPO=や売却などの出口戦略で得た価値)は、23年に東南アジア全体で前年比6割減の28億米ドルだった。122億米ドルに上った21年は、シンガポールの配車サービス大手グラブ・ホールディングスが米国市場に上場したことが全体を押し上げた。22年、23年は大型の出口案件が少なく、2年連続で前年を下回った。

ベインは報告書で、「23年の出口価値の低迷は、『前年よりも市場環境が厳しい』と感じる投資家が多かったことが背景にある」と説明。投資家の間では「マクロ経済が弱含んでおり、市場が回復するまで待つ」と答えた人が多かったと指摘した。

東南アジアの投資家が出口戦略で懸念している事項では、「出口条件の厳格化」「適切なタイミングを見つけるのが困難」と答えた人が多かった。一方、「他のファンドとの競争が厳しい」と答えた投資家は最も少なかった。

東南アジアのPE市場の見通しについては、多くの投資家から「市況回復には3~5年かかる」との声が聞かれた。域内では今後もしばらくPE市場の低迷が続く見通しが示された。

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