『光る君へ』町田啓太の芝居の魅力は“呼吸”にあり 人としての魅力が増し続けている公任

吉高由里子主演の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)。公式サイト内には出演者の撮影現場からのコメントが聞けるキャストインタビュー動画「君かたり」が公開されている。第22回「越前の出会い」の放送後には、藤原公任役の町田啓太、藤原為時役の岸谷五朗が登場した。

第22回では公任(町田啓太)が道長(柄本佑)の代わりに対応する場面がある。大宰府へ配流となったはずの伊周(三浦翔平)が都へ戻ってきた一件だ。藤原実資(秋山竜次)に代わって検非違使別当となった公任は、母・貴子(板谷由夏)の病を案じて都へ戻ってきた伊周への対応を任される。道長に報告せずに伊周を追い返すこともできたのだが、公任は道長に向かって「俺って優しいからな」と口にした。

公任を演じる町田は、左大臣である道長への礼節をわきまえながらも、その立ち居振る舞いに道長と公任が長年の友人であることを確かに感じさせる。2人の信頼関係を思わせる佇まいは巧みだ。道長は自身の立場をわきまえ、甥に処罰を与えたが、心のどこかで甥への情を拭いきれていない。公任はそのことをよく理解しているからこそ、友人として道長を気遣う。なお、道長が伊周への対応を公任に託した場面での、「苦手だなあ、こういうの」と本音を漏らす姿には親しみがあった。

公任は検非違使別当の立場として、一度は伊周を追い返す。しかし泣き崩れる伊周の姿を見ると、いたたまれない表情を浮かべる。伊周を前にした場面で、町田は思索を巡らすように目を動かすと、瞼を閉じ、ため息を吐く。町田の演技は、呼吸が特徴的なように思う。道長の反応を見て、「俺って優しいからな」と口にする前も、伊周が「別れを告げてまいれ」と母に会うことを認める前も、町田はため息を吐いていた。それは呆れの表現などでは決してなく、むしろ、立場ではなく、旧友や人として、自分の素直な気持ちを行動に表す準備を整えた合図のようにも見える。

町田は公式ガイドブックにて「出世欲がないわけではないんですけれどね」とコメントを残しつつ、インタビューでは、傲慢な振る舞いが目立ってきた伊周が弱り果てた姿で現れ、母に一目会いたいと泣きすがる姿を見て、「昔、自分もエリート街道を絶対上っていくだろうと思っていたころの公任の姿ともたぶん重なる部分が、伊周を見ていてあったんだろうなと思って」と、伊周とかつての自分を重ねたのではないかと考察していた。

亡き公任の父・藤原頼忠(橋爪淳)は関白だった。頼忠が生きていた頃の公任からは、自分も関白に上り詰めなければという気概と焦りが感じられていた。しかし今の公任は、父という後ろ盾がなくなった現実と向き合っており、人としての魅力がグッと増している。町田は、公任が伊周が母に会うことを許可する場面について「普通だったなら規則違反はそんなに好きではない人間だと思うんですけれど、そういうところではなくて、人として何か手を差し伸べてあげたい、寄り添いたいなっていう思いが公任の中では強まったんじゃないかな」と答えていた。

今後、公任は歌人としての名声を高めていくことになる。文化面を極め、人としての魅力がましていくであろう公任を町田がどう演じていくのか、期待が高まるばかりだ。

(文=片山香帆)

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