【今週のサンモニ】『サンモニ』コロナ報道を振り返ってみましょう|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

給付金こそ税金のムダ遣いだった

2024年6月2日の『サンデーモーニング』のトップニュースは定額減税の話題でした。これについて寺島実郎氏が次のようにコメントしました。

寺島実郎氏:減税にしろ、給付にしろ、人気取り型の政治から脱却しないと日本はダメだ。忘れてはいけないのは、コロナのトンネルの中で国民全員に10万円配って、12兆7千億円使った。で、消費は増えたかと言えばNoだ。じゃあ貧困者対策として効果があったかと言えばこれもNoだ。要するに政策効果をよく考える必要がある。

この寺島氏のコメントは極めて常識的であると考えます。

闇雲に国民に減税しても、それに見合った政策効果が期待できるとは限りません。何より、思い出されるのが、寺島氏が指摘したコロナ禍において国民全員に一律10万円が配られた特別定額給付金です。

この給付金こそ、『サンデーモーニング』をはじめとするテレビのワイドショーが主導した巨額の税金のムダ遣いでした。

最大の死者が観測された第8波の死亡リスクを行動制限もなく許容した日本国民にとって、行動制限は最初から不要であったと言えます。

「ダイヤモンド・プリンセス」の感染で一変

この許容可能なリスクに対して、『サンデーモーニング』をはじめとするテレビのワイドショーは、国民の恐怖を徹底的に煽ることで実質的に自粛を強制しました。その結果、死者数がかなり少なかったにも拘らず、第1波において国民経済は大きな打撃を受け、政府は生活保障のために特別定額給付金を支給せざるを得なくなったのです。

この機会を利用して、当時の『サンデーモーニング』がどんな悪質な報道をしていたのか、振り返ってみたいと思います。

2020/01/19
元村有希子氏:正しく怖がるべきだ。いまのところ今回の新型肺炎、母数はわからないが2人しか死んでない。死亡率としてはかなり低いので、そこまで心配する必要はない。

2020/01/26
松原耕二氏:SARSの場合も封じ込めるまでに半年かかった。とすると、ないとは思うが、今から半年と言うと、東京五輪を考えてしまう。そこまでに封じ込める必要がある。

2020/02/02
鎌田實氏:簡易式のPCR検査をこの2か月くらいで出来るようになれば、インフルエンザと同じようにコロナウイルスもやれるようになると、随分防御する力になる。

元村有希子氏:冷静に病像を捉えて適用することがとても大切でWHOが情報の中心にならなければいけない。これから日本で患者が増えてきた場合のことをこれから考え始めた方がいい。

『サンデーモーニング』の当初のコロナ報道は、特段恐怖を煽るような報道ではありませんでした。コメンテーターの発言にも切迫した危機意識は感じられません。

しかしながらクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の感染事例が政府批判に利用できることを認識すると、状況は一変します。

2020/02/09
関口宏氏:(クルーズ船の乗客)全員を調べてあげたらいいのに一部の方ばかりですよね。

中島一敏氏(専門家):検査は会社に発注してできるものではない。国立感染症研究所など公的な機関で遺伝子検査をする。それには数も限られているし、精度管理の問題もあるので、無尽蔵にできる状況ではない。優先順位を付けなければならない。

2020/02/16
アナウンサー:浮かび上がってきたのは後手に回った政府の対応です。1月18日には「人から人」への感染が広がっていた状況。しかし政府が水際対策を強化する方針を明らかにしたのは宴会から3日後の21日、湖北省からの入国拒否を決めたのはさらに10日後の31日だったのです。

青木理氏:大切なのは検査体制それから医療体制の構築だが、クルーズ船のたかが3千人を全員検査できてなく後手後手に回っているような状況で、本当は万単位の検査体制が必要だと思うが、それもできていない。日本でも一強政権とか官邸主導のせいかわからないが、後手後手で対策本部の設置もかなり遅れている。

2月に至るまで危機意識などほとんどなかった『サンデーモーニング』ですが、このあたりから政府の対応を「後手後手」とヒステリックに非難するようになります。PCR検査にしても即座に提供できるはずがないことは、2/2および2/9放映の専門家のコメントから明らかです。

混乱を招いている元凶は『サンモニ』

2020/02/23
アナウンサー:新たに小学生や未就学児など14都道府県で115人の感染が確認されるなど、歯止めがかからない新型コロナウイルスの感染拡大。乗客乗員合わせて634人の感染が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」では、入院中だった87歳の男性と84歳の女性が死亡したことが明らかになりました。感染症を専門とする岩田教授は船内ではウイルスに汚染された区域と安全な区域が区別されていないと告発したのです。これに対し、厚生労働省は十分な区分けができていると反論しました。しかし下船した乗客からは…

乗客:腹立っているよ! クルーズ船に対して。それから厚労省にも!

自らの責任で外国船に乗船して旅行をしていた乗客が、船内の医療活動を人道支援した日本国に対して腹を立てるのは理不尽もいいところですが、『サンデーモーニング』はこのような声すら政府批判に悪用しました。

ちなみにWHOはこの時の日本政府の対応を高く評価しています。

2020/03/01
アナウンサー:安倍総理の発言が波紋を拡げました。安倍総理が突然全国すべての小中学校、高校、特別支援学校に対し、臨時休校を要請したのです。子どもたちの健康を第一に考え決断したと語った安倍総理。しかしこの要請が大きな混乱を招いたのです。お子さんがいる世帯は非常に混乱しています。仕事をしている間、お子さんの面倒を誰が見るのか戸惑っているわけです。

大宅映子氏:たくさん検査したらたくさん感染者が出る。それが嫌だから検査させない。

青木理氏:検査体制を充実させないで一斉休校はないだろう。具体的な検査体制についても、休業補償についても、お子さんをどうするのか具体的措置も一切出ず、ガッカリした。政権の「やってる感」を演出するのが見えている。

仁藤夢乃氏:弱い立場の人たちにしわよせが来る。首相の会見はそういうことに目が向いていない。どういうふうに市民の生活を保障するのか。責任の取り方を示してもらわないと安心できないし信用できない。不信感から益々不安が広がる

政府の行動を「後手後手」と非難していた『サンデーモーニング』ですが、政府が先手を打つと今度は「波紋を広げた」「混乱を招いた」と非難しました。加えて、何の根拠もない陰謀論も氾濫しています。

波紋を広げて混乱を招いている元凶は『サンデーモーニング』に他なりません。

「ないものねだり」で不安を拡大

2020/03/08
アナウンサー:安倍総理は保険適用によりすべての希望者が検査を受けられるようになるとしましたが、安倍総理のこの発言が波紋を拡げました。かかりつけ医による検査は、あくまで今後の目標だと説明したのです。政府の対応の混乱が国民の間に不安を拡げています。

元村有希子氏:政治決断を矢継ぎ早に総理はやっているが、私から見たらタイミングが1カ月遅かった。1月30日に対策本部を立ち上げて2月1日に指定感染症に伴う入国制限を賭けたわけですから、その段階で中国への厳しい入国制限や休校の対応をやっておくべきだった。何で躊躇ったのか。PCR検査も1月30日の段階できちんと広げていれば、クルーズ船が来ても早く検疫を終わらせられた。その後の感染拡大も対応できた。かなりの失敗だ。

検査体制の充実が「今後の目標」であったことは自明でした。検査体制は、宣言すればすぐ構築できるものではありません。非常識な「ないものねだり」で人々の不安を拡げていたのは『サンデーモーニング』の方です。

とりわけ「私から見たらタイミングが1カ月遅かった」とする元村氏の発言は極めて悪質です。

2020/01/19の段階で「そこまで心配する必要はない」、2020/02/02の段階で「患者が増えてきた場合のことをこれから考え始めた方がいい」と主張していたにも拘らず、2月1日の段階で中国への厳しい入国制限や休校の対応を要求したり、1月30日の段階でPCR検査の拡充を要求したりする自己矛盾は、欺瞞に溢れています。

そもそも2月1日の段階で中国へ厳しい入国制限を行なっても、科学的には何の意味もなかったと言えます。既にウイルスは日本各地で市中感染していました。

2020/03/15
岡田晴恵氏:こういう推計が出ています。日本国内で新型コロナを何も対策しなければ、1080万人が発症し、216万人が入院し、21万人が亡くなるだろうと。集団免疫ができるまで収まらない。

ここで、岡田晴恵氏の登場です。推計は完全なインチキでした。

愚策を主張していた荻上チキ氏

2020/03/22
松原耕二氏:今回の三連休の人出、そして電車の混み具合を見ていると、東京は大丈夫だろうか。緩んでないか。

2020/03/29
アナウンサー:東京都の感染者数が過去最大の63人となりまして増加傾向が続いているわけです。気になってくるのが、自粛が緩んだと言われている3/20,21.22の三連休ですけれども、ここで感染した人がどれだけいるのか、はっきりわかるのが2週間後ですから、4/2,3くらいだと言われているんですね。

藪中三十二氏:京都で町の真ん中で一杯人だかり、カラオケ屋さんだった。若者が行っている。最悪だ。3連休の前に「学校は再開するんだ」という発表があって、若者は「まぁいいかな」という感じだった。リーダーの発信力は非常に大事で再開するとなったら緩んだ。

青木理氏:小池さんが突然出て来て「ロックダウンだ」と言うが、これって五輪のために検査を抑えていたのではないだろうかとか、危機感を煽らないようにしてたんじゃないだろうかと疑念を持つ。こういうことをしていると信頼が行政や政治に対して持てなくなる。よく目を凝らしてこの政治は信頼に値するのかを考えなければいけない。

コロナは気持ちの緩みによって感染するという日本独特の感染者に対する人格批判は以上のような発言によって醸成されて行きました。青木氏の陰謀論も止まりません。

2020/04/05
岡田晴恵氏:免疫を持つまでは流行は止まらないので、これは序の口でございます。増えるのを止めるためには人の動きを止めるしかない。

アナウンサー:東京都は遂に新規感染者数が100人を超えました。ちょうど2週間前は3連休なんですね。自粛ムードが緩んだとされている時期なんですけれど、この時の行動が結果として表れているんじゃないかと見方があるんですね。

岡田晴恵氏:市中感染率が上がってから行動規制をかけても効果がない。市中感染率が低いうちに緊急事態宣言をやり、規制を厳しくすることが大事だ。底がわからない所が非常に辛い。
ニューヨークの日本人医師:今の日本を見ていると3週間前のニューヨークを見ているような気がしてそれがすごく怖い

アナウンサー:今、日本にも刻一刻と医療崩壊の危機が迫っています。

松原耕二氏:日本はオーバーシュートしても気づかないんじゃないか。気付いた時には手遅れになってしまうんじゃないか。検査が少ない。全てが後手後手に回ってしまう。

驚くべきことに、以上の言説はすべて科学的根拠を欠いた自信満々の憶測です。

ところで、寺島氏が今回の放送で指摘した政策効果がない愚策を主張していたのが荻上チキ氏でした。

荻上チキ氏:日本では線引きをせずにより多くの人たちにまずは給付をすることが必要だ。そしてさらに困っている人たちにプラスアルファの給付をしていく。あるいは企業に対して雇用調整助成金以上に更なる雇用を守るための方策というものを支援していく。あるいは企業がより自粛であるとか活動中止というものを限定的に行えるようにしっかり金を渡していく。

つまりこういった様々な支援というのは、生活を守る、それから企業を守る、文化を守る、産業を守る、そうしたことだけではなく、広く防疫の観点から話し合っていくことが必要になってくる。つまり、企業が活動を止められなければ、感染症は拡がる。

だから、感染症対策のために企業に「活動をやめて下さい」と言っても各企業は「いや、それでもお金が」ということで活動を続けなければいけなくなる。だからこそ、大規模な経済支援を行っていくことによって、企業もいったん休止の上で、雇用であるとか、人々を守る。そうしたことをしやすくしていく。

今回の経済政策というのは、貿易というゴールと、生活支援や企業支援をセットで考えていくことが必要だ。こういった経済政策は、スピード感と規模感、そして的確に充てていくことが重要だ。ただ、スピード感も規模感もまだまだ遅い。そしてその支給対象に対しても絞ろうとしてしまっている。絞れば絞るほど事務手続きがかかって行くので、そうしたことはしない方がスピード感は出てくる。

計算一つできないコメンテーターたち

そもそも行動制限自体が必要なかったので給付も必要ありませんでした。すべての元凶は恐怖を煽った『サンデーモーニング』をはじめとするワイドショーです。

2020/04/12
アナウンサー:東京は4日連続で最多となる197人。

岡田晴恵氏:自粛8割を目指すならば保障と抱き合わせでもっと強く自粛要請を今すぐかけることをしないと感染伝播が止まらない。メガクラスターが出てくる。

佐高信氏:ハッキリと給与保証しないと人間休業になる。

元村有希子氏:国は経済の冷え込みを心配し、そちらを優先している。少しでも拡大をくい止めるという局面にあまりにも違和感がある。もう一つはスピード感だ。30万給付するという策はとっているが、申請や承認に時間がかかって一番早くて夏になる話もある。ただ、小さな店舗の人は今月の家賃も払えないで困っている。

青木理氏:補償を一括しないと後で取り返しがつかないことになる。

実は第1波の新規感染者数は、この日を境にピークアウトしました。つまり実効再生産数はこの時点で1を切ったのです。ただ、計算一つできない『サンデーモーニング』のコメンテーターは政府の悪魔化に明け暮れていました。

2020/04/19
アナウンサー:西浦教授は人と人との接触を減らすなどの対策を全くしなかった場合、国内でおよそ85万人が重篤化し、そのうち41万人余りが死亡する恐れがあると指摘したのです。翌日、安倍総理は緊急事態宣言の対象地域を全国に広げることを表明、さらに国民すべてに10万円の給付を行うことも併せて明らかにしたのです。

岡田晴恵氏:首都圏東京は完全に患者さんが増えていて蔓延状態だと読み取れます。亡くなっている人が増えている。1日当たり12.6人。渋谷で3割というのは、下がらずに上がる傾向が続いて行ってしまう。もっと引き締めなければいけない。

安田菜津紀氏:安倍首相からは今週「日本の支援は世界で最も手厚い支援」と言っていた。こうして権力を持つ人が自画自賛をするという時は、最も苦しい人たちの声を聞いていないか、聞かないようにしている時だ。

涌井雅之氏:「見えない敵との戦いだ」と言いながら、実は平時の発想とまったく変わっていない。逐次投入という形で、一番重要なポイントの転換点を見失ってしまった。これが拡大に繋がっているとしか思えない。

『サンデーモーニング』は8割おじさんの大ハズレに終わった推計を紹介しました。岡田氏は死者数が今後下がらずに上がって行くと憶測していますが、実際には新規感染者数が1週間前にピークアウトしており、死者数もこの日を境にピークアウトしました。ちなみに日本の支援が世界で最も手厚い支援の一つであることは間違いありません。

新型ウイルス経済支援、最も手厚い国はどこ? - BBCニュース

唯一正論を唱えていた寺島実郎氏

安田氏は悪意を根拠に結論を導いています。恐ろしい魔女狩りです。また、涌井氏の主張もデタラメです。

コロナウイルスは継続的に変異するため逐次投入が適していましたが、日本政府は戦略など少しも理解していない似非論者の集中投下の要求に屈して、死者数が少なかった第一波の対策に大金を投じてしまったのです。涌井氏のような似非論者は、納税者にとっては本当に迷惑な存在です。

なお、『サンデーモーニング』でこの件に関して唯一正論を唱え続けていたのが寺島実郎氏です。

ただし、残念なことに、番組出演者にはあまり相手にされず、番組の論調に影響を与えることはできませんでした。今回の発言は、積年の悔しさが現れた可能性があります(笑)

いずれにしても、『サンデーモーニング』はコロナを政権批判に悪用し、国民生活に莫大な損失を与えました。番組は多くの死者を出した第8波をほとんど報道しませんでした。彼らにとっての優先事項は政権批判であり、国民の命は二の次なのです。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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