宝塚星組・暁千星が孤児から紳士へと波乱万丈の人生を歩む役で新境地 『夜明けの光芒』開幕

宝塚歌劇団星組公演『ミュージカル・ロマン「夜明けの光芒」 チャールズ・ディケンズ作「大いなる遺産」より』が、6月3日に梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕した。今年、話題のインド映画「RRR」を舞台化した大劇場公演で、骨太なラーマ役を熱演するなど、成長著しい暁千星(あかつきちせい)が、文豪の名作でまた違った繊細な魅力を見せた。

ダンスが得意な暁が芝居のなかで踊り出すと、やはり劇場の空気が何倍にも動き出す

19世紀初頭のイギリス、片田舎で暮らす孤児のフィリップ・ピリップ(ピップ)(暁)は、近所の大邸宅に住むエステラ(瑠璃花夏/るりはなか)に惹かれ、彼女に見合う紳士になりたいと夢見る。彼女を忘れられないまま過ごしていたある時、莫大な遺産の相続人に指名されたことを告げられ、憧れ続けていた紳士になるべくロンドンへ。遺産が誰の恩恵か知ることは許されないまま、立派な紳士になったピップは、エステラと再会を果たすが――。

貧しい生まれの少年が数奇な運命に立ち向かい、「僕に未来はあるのか」と悩みながら、愛を貫こうとする同作。1990年には剣幸・こだま愛主演の月組大劇場公演としても上演されたチャールズ・ディケンズの名作「大いなる遺産」を、演出家・鈴木圭がピップの成長譚として新たに描き上げた。

闇ダンサーとともに現れ、ピップに謎の言葉を投げかける「闇」役の天飛華音(後ろ中央)

暁が演じるピップは、自身の夢の中に住む「闇」に、何度も翻弄される。その「闇」役として不敵な表情でふいに現れる天飛華音(あまとかのん)は、嫌味な大地主のベントリー・ドラムル役も担っていて、この二役の配置が、ピップが背負うものの重さを視覚化しているようで興味深い。

暁は鍛冶屋の義兄・ジョー(美稀千種/みきちぐさ)を慕う無邪気な表情、ロンドンへ出てきてから紳士になろうとする貪欲さ、周りとの軋轢、そして信頼を取り戻していく様など、ピップの心情の流れを丁寧に織り上げていく。「芝居の月組」で培った繊細な内面描写と、「熱い星組」で日々蓄えている情熱や男役度がいい具合に融合し、暁の中で化学反応を起こしているのを、ラストシーンで特に感じさせた。

ピップ(右・暁)が「美しく野に咲く真っ赤なアザミの花」に重ねるエステラ(瑠璃花夏)。高慢な彼女との愛の行方は…

不幸な過去をもつミス・ハヴィシャム(七星美妃/ななせみき)の養女となり、愛を知らずに育てられたエステラを、冷たい仮面を静かにつけているような温度感で演じる瑠璃の緩急ある芝居。押し出しのある演技に、黒系の衣装でダークな二役を好演した、入団9年目の頼もしい天飛華音。ピップを支える友人、ハーバート・ポケットを、温かみのある芝居で描出した稀惺(きしょう)かずと。重要な役を演じる星組メンバーが健闘している。

ミス・ハヴィシャムの親戚であるハーバート(右・稀惺かずと)と、ロンドンで共同生活を始めるピップ(暁)

また冒頭から熱演を見せた、少女エステラ役の乙華菜乃(おとかなの)、少年ピップ役の藍羽(あいは)ひより。脱獄囚エイベル役で大きな存在感を示した輝咲玲央(きざきれお)、ピップに幼い頃から影響を与えるジョー役の美稀千種、風貌からも薄幸さを自然に表した七星美妃など、ほかのキャストたちも重厚な物語を、大きなセット転換のない凝縮された空間で色濃く見せていった。

本編の色味と違い淡いブルー系の燕尾服で、心を解放するかのように踊るフィナーレの暁千星

演出の鈴木が、暁千星の芸名にちなんでつけたという作品タイトル。果たしてピップの人生に明るい光の筋が差しこむのか――。いまや星組の光となった暁の充実ぶりは、フィナーレの最後に用意されたダイナミックなソロのダンスでも堪能できる。スモークがたかれるなか、舞台全体を使って踊り切る暁は、千秋楽まで拍手喝采を浴びることだろう。初日前日の舞台稽古では、「明日の初日、そして千秋楽までどうぞよろしくお願いします」と柔らかい笑顔で挨拶をしていた。

なお『夜明けの光芒』は同劇場で6月8日まで上演後、6月14日から20日まで東京建物 Brillia HALLで上演される。6月8日16時公演は、「Rakuten TV」「U-NEXT」「Lemino」にてライブ配信される。詳細は公式サイトを参照して。

宝塚歌劇星組シアター・ドラマシティ公演
ミュージカル・ロマン『夜明けの光芒』
チャールズ・ディケンズ作「大いなる遺産」より
公式サイト:https://www.umegei.com/schedule/1186/

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・小野寺 亜紀)

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