『366日』“紗衣”夏子の切ない思いに胸が締め付けられる 溢れ出す“和樹”綱啓永の思いも

4年に1度しか訪れないうるう年。その日、多くの人は4年後の未来を想像する。次のうるう年に自分は何をしているだろうか、誰と一緒にいるだろうか……と。

『366日』(フジテレビ系)第9話では、明日香(広瀬アリス)と遥斗(眞栄田郷敦)が出会ってから4度目のうるう年を迎える。十数年ぶりに再会し、高校時代に実らなかった恋を叶えようと再び動き出した2人は、本来なら一緒のその日を過ごすはずだった。けれど、運命はどこまでも彼らを引き裂く。

お互いを想うが故に別れを選択した明日香と遥斗。2人の道は再び枝分かれし、それぞれの日常に戻っていく。遥斗は自立するために、妹・花音(中田青渚)の家を出て一人暮らしを始めた。社内で行われる新店舗・新メニューのコンペにも精を出す。一方、明日香も自身が勤める音楽教室の生徒・静原(前田公輝)の彼女で、フルート奏者のちなみ(鈴木絢音)に誘われ、室内楽のサークルに加わることに。寂しい気持ちはあれど、どちらも前を向いて 歩き始めていた。

けれど、お互いのことを忘れられたわけじゃない。遥斗は過去の自分に負けない人間になろうとしている。それはきっと、明日香が時折過去の自分を思い出しては少し切ない表情を浮かべていたからだろう。もし再び道が交わることがあったなら、もう二度とそんな顔はさせないように。心から笑顔にさせてあげられるように、今を積み重ねているのではないか。今日の自分より明日の自分。昔も今もそう思える遥斗はやっぱり強い。

明日香は推し活イベントに参加するため、しばらく家に泊まることになった母の真由美(中島ひろ子)から両親の秘話を聞く。子供の頃から何でも分かり合えているように見えた両親にも、お互いの苦しみに気づけなかった過去があった。夫婦だから、恋人だからといって、相手のことを理解できているなんて思うのは傲慢だ。夫婦も恋人も本来は他人同士なのだから、全てを理解するのは難しい。それでも理解したいという気持ちを持ち続け、その上で一緒にいて笑い合えるかどうかが大事だという真由美。そういう関係を、明日香はいつか遥斗と築きたいと思ったに違いない。

だが、明日香は遥斗が看護師の紗衣(夏子)と一緒にいるところを見てしまう。序盤から遥斗と過去に何らかの繋がりがあると見られていた紗衣。彼女は遥斗が高校時代に痴漢から助けた女子高生だった。遥斗は、紗衣が両親を亡くして祖父母に引き取られ、知らない街で心細い思いをしていた時に手を差し伸べてくれた相手。そんなの、好きにならないはずがない。それでも一看護師として遥斗を支え、後ろめたい恋愛は無理だからと身を引こうとした紗衣の思いに胸が締め付けられた。このドラマの主役は明日香と遥斗だが、誰しも自分の人生の主人公であり、HYの主題歌「366日」の歌詞は紗衣の状況にも当てはまる。

そしてもう一人、ずっと切ない思いを抱えて生きてきたのが和樹(綱啓永)だ。明日香に片思いしながらも、彼女と遥斗の幸せを自分事のように祈り続けてきた優しい和樹。だが、泣いている明日香を見て堪えきれず、和樹は「もう何も言わなくていいから」と抱きしめた。2人の後ろには、2012年の閏年に竣工したスカイツリーが立っている。当時、明日香と遥斗は進路を決める真っ只中。その後、2人は別々の道を歩むことになったが、2016年のうるう年も、2020年のうるう年も、きっとお互いの顔を浮かべていたことだろう。4度目のうるう年も、明日香の隣に遥斗はいなかった。けれど、未来は何が起こるかわからないから。もうすぐ再会してから366日目を迎える2人が、一緒に笑い合っている未来もあるかもしれない。

(文=苫とり子)

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