【コラム・天風録】能登半島地震5カ月

 大相撲夏場所で大の里関が賜杯を抱いてから、古里石川県は沸き返っている。地元紙に〈ヒーロー〉〈被災地に元気〉と見出しが躍る。ただ、優勝会見の翌日、1面トップに載ったのは郷土の星ではなかった▲人知れず、輪島市の仮設住宅で息を引き取っていた70代の女性である。元日の能登半島地震後、初めて見つかった孤独死だった。持病があり、市外で娘と避難生活を3カ月ほど続けたものの、1人で戻っていたらしい▲県外に逃れた被災者は、少なくとも38都道府県に及ぶ。情報過多といわれる時代でも、地元の情報は意外と手に入らないという。震災発生から5カ月を列島中に思い起こさせるように、きのう能登地方で強い地震があった▲東日本大震災の時は4カ月後、被災者のもとを回る見守り要員を仙台市が置いた。当時の合言葉に倣い、「絆支援員」と呼ばれた。輪島市は今回、巡回の人員を9倍に増やした。絆を繕い、県外避難者も結んでほしい▲災害は世の中の動きを加速する―。孤独死が増え、絆が色あせていく社会の風潮にも当てはまる経験則と思えてくる。被災地を支えつつ、その経験に学びたい。災害に直面する恐れのある「未災者」として。

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