熊本県内の小学校では教職員が児童を呼ぶ際、「さん付け」で統一する学校が増えている。多様性や平等性などの観点から、男子児童の「君付け」や女子児童の「ちゃん付け」、ニックネームでの呼称はなくなりつつある。専門家は「人権への配慮から呼称の統一が広がりつつある。一方的に押しつけるのではなく、児童が納得して呼ばれることが大事だ」と指摘する。
「〇〇〇〇さん、どうぞ」。5月下旬、熊本市中央区の慶徳小の昼休み。6年担任の佐浦武久教諭が男子に呼びかけた。同小では教諭から児童に対しては、「さん付け」をし、児童同士で呼び合う際も敬称を付けるように呼びかけている。
佐浦教諭は「二十数年前にジェンダーの視点から、『さん付け』をした方が良いのではないかという声が教員の中から出てきた。自分も一人一人を大切にするため、『さん付け』をするようになった」と振り返る。大竹弘祐校長は「他の呼び方を否定するものではない」とした上で、「名前を呼ばれる人が違和感や不快な思いを感じないことが大切」と語る。
子どもたちの受け止めはさまざまだ。3年の男子児童は「保育園の時から『さん付け』だったから当たり前だと思っている」。4年の女子児童は「仲がいい子には『ちゃん』や『君』の方が呼びやすい」と素直な気持ちを打ち明けた。
中央区の帯山小では昨年から、教諭の提案をきっかけに児童を「さん付け」で呼ぶようになった学級もある。西方浩一校長は「昔に比べて性差を区別せず、子ども一人一人を尊重しようという意識が高まっている」とみる。
子どもの差別禁止などをうたう「子どもの権利条約」を日本が批准して今年で30年。その意義を取り込んだ「こども基本法」が23年4月に施行されるなど、多様な観点から子どもへの配慮が必要との認識が広まっている。文部科学省の担当者は「教職員の児童の呼び方に関して国から通知など出していないが、基本法などを踏まえ、それぞれの学校で判断しているのではないか」と推測する。
熊本市教育委員会では毎年春に行う校長・園長会で、不必要な男女の区別をしないよう提案。会議で使う資料には「敬称を付けているか」「『ちゃん』『君』で呼ぶと児童はどんな気持ちになるか」「気づかないうちに特定の児童を特別扱いしていないか」-など、人権感覚を啓発する問いかけを盛り込んでいる。
性差の区別をなくす取り組みは、児童の名簿にも反映されている。県教委や市教委によると、以前の県内の公立小学校の名簿は、男子が先に書かれ、女子はその後だったが、現在は男女の区別をしない「混合名簿」が使用されている。
熊本大大学院教育学研究科の苫野一徳准教授は「呼称の統一はさまざまな問題が起こらないようにするため、学校側の配慮による部分も大きい。児童がどう呼ばれたいかなど学校運営に関して意見を取り入れながら、みんなが居心地のいい学校づくりに取り組んでほしい」と注文する。(後藤幸樹、上野史央里)