年金17万円の70代父「老人ホーム」へ…同居していた50代共働き夫婦、ホッと安堵も「えへへ、帰ってきちゃった」とまさかの展開に呆然

(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者が終の棲家とする老人ホーム。しかし、費用面ばかり見て施設を選ぶと、本人に大きな不満が生じるばかりか、親族が大変な思いをすることもあるようだ。実情を見ていく。

姑が亡くなり、舅と同居することになった50代女性

核家族化が進み、夫婦共働き世帯が当たり前となったいま、昭和時代のような、家族ぐるみでの自宅介護は、介護する側・される側が切望しても、なかなか事情が許さなくなってきた。

そのため「老人ホーム」を終の棲家とする高齢者も増えているが、じつは「入居さえできたら、それで安泰」ではないという、厳しい現実があることをご存じだろうか。

株式会社Speee/「ケアスル 介護」による『介護施設の転居に関するアンケート調査』では、入居した施設が「1施設目」との回答が61.6%。逆にいうと、老人ホーム入居者の4割が転居をしているということだ。

ある50代女性は嘆く。「70代後半の舅が、せっかく入った老人ホームを退去してしまいました…」。

女性と夫は共働きで、数年前に姑が亡くなるまで、夫の両親とは別居だったという。しかし、自分の身の回りのことができない舅は、姑亡きあとすぐ生活に行き詰った。

「私も夫も決して高給取りではなく、ひとり息子を私立大学にやって独立させたら、貯金もスッカラカンでした。ですから、舅の面倒を見るために、退職をするという選択肢はありませんでした…」

舅は日中、息子夫婦の家にひとりで在宅することになった。女性は忙しい合間を縫って、日々の洗濯などを行うほか、舅のための作り置きの食事などを準備した。息子の世話を思えば…と考え、目をつぶっていた女性だが、先に夫のほうが音を上げてしまった。

女性よりも夫の方が帰宅が早いのだが、夫が戻ると、舅がひとりで晩酌をすませ、自室に戻らずリビングのソファで寝込んでいる。夫が父親の食器を下げ、自分の食事をとり始めると、今度は目を覚ましてずっとそばで話を振ってくる。

「主的向きは、不在の間になにかあったら心配だから、という話になりましたが、納得してもらうまでが大変で。説得に当たった夫は、ゲッソリしていましたね。自分の父親なのですけれど…」

しぶしぶ施設入所を納得した舅だが、夫婦には援助するための資金力がないため、舅の月額17万円の年金と預貯金でどうにかなるところを探すしかない。

老人ホーム入居にかかる費用の内訳とは?

老人ホーム入居にかかる費用だが、まずは入居一時必要になる。老人ホームの家賃は「入居一時金方式」と「月払い方式」があり、前者は一定期間分の家賃をまとめて前払いし、後者は毎月定額の家賃を徴収される。前者を採用するホームのほうが多く、前払いの分、毎月かかる費用を抑えられるメリットもある。

まとまった費用が出せなければ入居は叶わない。そのため、月払い方式を用意している施設もあるが、一時金の費用はかからない分、毎月の費用は高くなる。

また入居一時金は、5〜15年程度の償却期間があるのが一般的で、償却期間が終わる前にホームを退去した場合は、未償却分の入居一時金を返還してもらうことができる。通常は初期償却分として、入居と同時に償却される分があり、この部分は基本的に戻ってこない。

そして、入居後に毎月支払う月額利用料だ。内訳はホームによって異なるが「家賃」「食費」「水道」「光熱費」「管理費」「介護費」といったのが主な項目だ。また、ホームによっては日用品代やおむつ代など、日常生活費として個人で支払う費用がプラスされることもある。費用に含まれるものと含まれないものを、しっかり確認しておくことが重要である。

「たくさん資料を集め、夫と相談して、費用面の条件が合うところに決めたのですが…」

ようやく一安心と思っていたところ、舅は「どうしてもガマンならない」といって退所してしまったという。

「えへへ、帰ってきちゃった、と…。もう呆然ですよ」

上記のアンケート調査によると、転居経験者に理由を尋ねたところ、「特養などに入所するため、一時的な入居だった」33.3%とトップだったが、「介護スタッフ・施設職員への不満」「介護サービスの質が低い」「医療・看護体制が不十分」「介護度や病気が重くなり退去を命じられた」といった内容が続く。初めから転居前提の入所というケースがあるものの、介護サービス・体制への不満、介護度の変化なども退去理由となっている。

予算内で収まる施設を発見!→入所したものの…

入居者の年金だけで老人ホームの入居費用が賄えるのが理想だが、現実はそう簡単ではないようだ。

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況和』によると、厚生年金保険(第1号)の老齢給付の受給者の平均年金月額は、併給の老齢基礎年金を含めて14万4,982円。65歳以上の受給権者の平均は、男性が16万7,388円、女性が10万9,165円。また国民年金の老齢年金受給者の平均年金月額は5万6,428円となっている。元会社員であれば月17万円、手取りにすると月14万~15万円程度の年金が得られるようだ。

女性と夫は、舅を入所可能な費用の施設を探したが、民間企業運営する老人ホームの場合、月額費用の相場は20万~30万円と高額で、なかなか年金で賄えるところがない。ところが、なんと予算内で収まる施設を発見。

夫婦で喜び、舅を施設に入所させた。

ところが、入所してみたところ、聞いていた話とはかなり違っていたという。とにかく人手が足りておらず、当初聞いていたクオリティのサービスが受けられないというのだ。

「食事が口に合わないし、用事があってスタッフを呼んでも、忙しすぎて対応してもらえず、忘れられることもしょっちゅうだといっていました」

「金銭面での条件だけで選んだら、結局こんなことに…」

舅は再び夫婦の自宅に戻り、新しいホームを探しているというが、作業は難航している模様だ。

介護業界は慢性的な人材不足の業界だが、近年ではそれに拍車がかかり、サービスの低下がみられるホームもあるようだ。また、パンフレットをよく読まず、大きな文字で表示されている金額だけ見て「安い!」と喜んでいると、あとから大変なことになる場合もある。医療費や介護費用などが月額費用に含まれていないといった、ケースもあるからだ。

老人ホームを安さだけで選んでしまうと、思い描いていたサービスが受けられず、後悔の原因になることもある。費用だけでなく、入居後の生活もシッカリ考慮したうえで検討することが重要だといえる。

[参考資料]

株式会社Speee『介護施設の転居に関するアンケート調査』

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況和』

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