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久藤(沢村一樹)に気に入られ、司法省で働くことになった寅子(伊藤沙莉)。『虎に翼』(NHK総合)第47話では、久しぶりに寅子の“スンッ”が炸裂する。
寅子が任されたのは、民法親族編と相続編の法改正の仕事。「家制度」「戸主」「家督相続」が廃止され、婚姻や相続の場面において女性の地位向上が記載されている新しい民法案を見た寅子は、「憲法に書かれている全ての国民が平等というのはこういうことなのかと」と当たり障りのない言葉が口から出てくる。
それを聞いた“ライアン”こと久藤から「君、思ったより謙虚なんだね」と言われてしまう。「心からそう思うのか?」という久藤の質問にも、寅子ははっきりと答えることができない。まさかあの寅子が謙虚と言われる日が来ようとは……。
本来の寅子であれば「少しずつでも前進」という発言は出てこないはず。むしろ「はて?」と民法改正案に突っかかっていっただろう。しかし、一度は弁護士を離れ、今は大切な家族も抱えている寅子は、慎重になりすぎるあまりいつもの威勢の良さが失われていた。久藤はそんな寅子を見抜いていたのだ。最初こそ胡散臭さを感じていたが、実は人間の本質を見極められる厄介なクセ者タイプなのかもしれない。穏やかな口ぶりで寅子を詰めていく沢村一樹のつかみどころのない演技はお見事だった。
その夜、自宅へと戻った寅子は今日起こったことを家族に説明すると、はる(石田ゆり子)から「あなたが謙虚だなんて言われる日が来るとはね」と笑われる始末。しかし、唯一花江(森田望智)の顔からは笑顔が消えていた。それに気づいた寅子が「どうしたの?」と相談に乗ると、花江は直道(上川周作)の仇でもあるアメリカ人と仕事をしている寅子に対して複雑な気持ちであったことを明かす。家族を戦争で失ってしまった人にとって、戦後の激しい変化についていけない花江のような人は大勢いたのだろう。「無理に笑うことないから」と優しく寄り添う寅子の優しさが身にしみる。
その後も頭の中では久藤の“謙虚”という言葉が頭から離れずにいた寅子。考え事をしながら廊下を歩いていると、偶然にも桂場(松山ケンイチ)と出くわす。寅子は自分を採用してくれたお礼を伝えると、桂場は口をへの字にしながら、「君もそういう薄っぺらなことを言うのだな」と辛辣な言葉を投げかける。久藤と同様に桂場も寅子に威勢の良さが失われていることに違和感を覚えていたのだ。
すると、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)と日本の間にあるギャップを埋めるために開かれている民法改正審議会の委員の1人である神保(木場勝己)が登場。桂場によると、政治学の権威で、恩師でもあるという。寅子を見るやいなや、「御婦人がいると空気が華やぐね」と発言する神保。その発言からなんとなくスタンスが想像できたが、やはり的中した。神保は古き良き日本の美徳を重視する保守的な考えを持っており、久藤の改正案には断固反対の立場だったのだ。
神保から民法に関する意見を求められ、ハッとした表情を浮かべる寅子。この辺りで寅子の本領発揮といきたいところだが、果たして……。
(文=川崎龍也)