【コラム・天風録】史上最大の作戦

 口笛に乗せた軽快なマーチが運動会の入場行進でよく流れたのを思い出す。米映画「史上最大の作戦」のテーマ曲。1944年に米英など連合国軍が仏ノルマンディー海岸に上陸し、対独戦の勝利を決定付けた1日を描く▲落下傘部隊の降下、艦砲射撃、突撃。敵も味方も次々と倒れる。戦場の生の記憶を映したであろう62年前の映画は日本人が親しむ音楽と裏腹に重苦しい。その「Dデー」からあすで80年▲記念式典に欧米の要人が集う。伝説の作戦の意義を語り合い、ウクライナの今と重ねてロシア包囲網の結束を図る場となろう。ただ少々複雑な思いもする。当時の日本はドイツと同じく米英の憎むべき敵だったからだ▲作家半藤一利氏の「昭和史」は記す。「西も東も軌を一にしたように日本とドイツの運命を決する大作戦が開始された」。ノルマンディーの9日後、日本が死守を図るサイパン島に米軍が上陸し、日本軍の玉砕のほか在留邦人約1万人が犠牲になる▲サイパン島はB29の基地となり、列島を猛火に包んだ一連の空襲へ道を開く。そして広島・長崎が…。Dデー式典に参じるバイデン米大統領は1年前に被爆地に立ったことも少しは思い出すだろうか。

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