【6月5日付編集日記】糊塗

 人の行為には「いつわり」が多い。そこに人と為を組み合わせた「偽」の語源がある。もっともな解釈だが、漢字学者の白川静さんによれば誤りで、元は変化して他のものとなる意味だったという

 ▼もう一つ、白川さんの常用字解から「欺」を引くと、偏を成す其は四角い形を表すと書いてある。その昔、儀式で四角の仮面を着け、神などに扮(ふん)し演技したことから、人をあざむくなどの意味になったとしている。いずれにしても、二つの文字の先には落胆、失望といった言葉が浮かぶ

 ▼大手自動車メーカーなど5社に、「型式指定」の認証申請で不正があったことが明らかになった。国の基準よりも厳しい試験をしてきた、性能上問題はないといった各社の見解は、確かにその通りなのだろう

 ▼だからといって、ルールを無視していいことにはならない。虚偽データなどで不正を行ってきた事実を、どうも、言い訳めいた言葉で糊塗(こと)しているようにも見えた

 ▼「ものづくり大国」の象徴として、日本経済を引っ張ってきた基幹産業はいつごろから、何が原因で変わってしまったのか。安全神話を隠れみのに欺いてきたわけではないにせよ、信頼を寄せて乗り継いできたユーザーの失望は深い。

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